《not因果》

船上での夕食を終え、船を降りた因果を烏間が呼び止めた。その間にも他の生徒達は殺せんせーと共に移動を続け、その波から外れて二人は向き合う。


「因果」

「んー?」

「大丈夫か?」


準備は万全かという意味も含まれているかもしれないが、烏間は因果を心配していた。本人は気付いてないだろうが、どこか不安そうな表情を浮かべているのだ。


「だいじょーぶ…ではないかなぁ…。手が、震えるんだよねぇ」

「……」

「武者震い、ってやつかなぁ?」


そう言って笑うが、その笑顔は今にも壊れそうだ。同じ役割の千葉と速水も勿論そうだろうが、伸し掛かる重圧は相当のものだろう。普段の様子からは想像もつかない程弱気な因果の両手を烏間はおもむろに取り、その大きく角張った手で優しく包み込んだ。


「!」

「心配するな、自信を持っていけ。今の因果なら、十分可能性がある」

「烏間、センセー…」


信頼しているからこその真っ直ぐな言葉と視線、そして伝わる温もりに、因果は息を呑んだ。自分を信じて応援してくれる人がいる。烏間なりの励ましに、いつしか手の震えは止まっていた。


「…ありがと、センセー。もう平気(へーき)。いつも通り、撃ってくる」


烏間を見据えた因果。その晴れた表情に烏間は安堵した。

一方で殺せんせーが生徒達に案内されたのは、ホテルの離れにある水上パーティルームだ。


「楽しい暗殺」

「まずは映画鑑賞から始めようぜ」


三村が編集した動画を鑑賞後、テストの勝者七人が触手を破壊し、全員で暗殺を始める流れだ。始める前に渚が念には念を入れてと殺せんせーのボディチェックをする。そしてそれも終わり、殺せんせーは椅子に腰掛けた。


「全力の暗殺を期待してます。君達の知恵と工夫と本気の努力。それを見るのが先生の何よりの楽しみですから。遠慮は無用、ドンと来なさい」


照明が消され、始まる上映会。殺せんせーは暗がりでもこの場にE組きっての狙撃手(スナイパー)三人がいないことに気付き、陸からする匂いで居場所を把握した。

そんな中、画面に映し出されたのはエロ本をニヤケ顔で読む殺せんせーの姿だ。教師として有るまじき映像に、本人は顔を赤らめる。


「こんなものでは終わらない。この教師の恥ずかしい映像を一時間たっぷりお見せしよう」

(あと一時間も!?)



***



「…死んだ。もう先生死にました」


一時間が経ち、殺せんせーは羞恥のあまりぐったりと背もたれに寄り掛かる。


「さて、秘蔵映像にお付き合い頂いたが、何かお気付きでないだろうか殺せんせー?」


そのナレーションで床全体が海水に浸かり、触手が水を含んで膨張していることに気が付いた。七人は立ち上がり、標的に銃口を向ける。


「さあ本番だ。約束だ、避けんなよ」


そして銃声と共に失われた七本の触手。するとそれを合図に音を立てて屋根が吹き飛び壁が崩れた。立て続けに小屋を囲むようにフライボードを操る生徒達が現れ、さながら水の檻へと変化した。更にその周囲をイルカが飛び跳ね、ホースで隙間を埋めるように水を放つ。

急激な環境の変化に弱い殺せんせーを木の小屋から水の檻に閉じ込め、弱った触手を混乱させて更に反応速度を落とす作戦だ。


「射撃を開始します。照準・殺せんせーの周囲全周1m」


檻の中では律を含めた生徒達が一斉射撃を始めた。しかしわざと狙わずに弾幕を張って逃げ道を塞ぐ。

そしてとどめの千葉と速水、因果の三人。陸の上には三人の匂いが染み込んだダミー置き、本物は今まで水中にいたのだ。

((もらった!!))

放たれた三発の銃弾。

(よくぞ…ここまで!!)

刹那、殺せんせーの全身が閃光と共に弾け飛んだ。


[14/10/28]






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