ようやく着いた普久間島。思いの外綺麗に整備されていて観光客も多い。船酔いで具合の悪そうな殺せんせーを横目に、皆は意気揚々と上陸した。一度荷物を部屋に置き、全員ビーチへ直行出来るテラスへ。


「ようこそ普久間島リゾートホテルへ。サービスのトロピカルジュースでございます」


大して喉は渇いてないけど、ウェイターから差し出されては受け取るしかない。勿体無いから飲んでおこう。カルマに勧めたけど断られた。残り半分飲んで欲しかったのに。

暗殺は夕食後に決行される。それまでは班別でリゾートを満喫することに。


「よく遊び、よく殺す。それでこそ暗殺教室の夏休みです」


一班が殺せんせーの陽動をしている間に、私達四班は水上コテージで暗殺に必要な仕込みを行う。殺せんせーは無邪気に遊んでいるようだけど、私達は至って真剣だ。計画書通りに暗殺が出来るかどうか、綿密に現地をチェックして回る。


「なんだよ先生、その模様は」

「日焼けしました。グライダーの先端部分だけ影になって」


何とか仕込みを終えた私達の前に現れた殺せんせーはちょっと間の抜けた日焼けをしていた。そして一緒に船でイルカを見るけど、こうしている間にも他の班が着々と準備を進めている。

そしてイルカウォッチングが終わり、殺せんせーは三班の元へ行った。


「それじゃー私は狙撃場所決めて来るねぇ」

「気を付けてね因果さん」


三班は海底洞窟巡り中だ。こっちの様子は分からない。千葉と凛香のポイントから距離を置いた場所にセッティングする。本番の前に何発か撃っておきたかったけど、この様子じゃ無理かな。

あと数時間後の暗殺を思うと手が震えてきた。今は緊張ではなく武者震いなんだと自分に言い聞かせ、皆の所に戻った。


***


「いやぁ、遊んだ遊んだ。おかげで真っ黒に焼けました」

「「黒すぎだろ!!」」


満足そうに言った殺せんせーは、その表情が読み取れないくらい黒く焼けていた。歯まで焼けて、どんな仕組みなんだろう。


「じゃ、殺せんせー。メシの後暗殺なんで」

「まずはレストラン行きましょう」


そして貸し切り船上レストランでの夕食。船酔いさせて殺せんせーの戦力を削ぐ為だ。


「実に正しい。ですが、そう上手く行くでしょうか。暗殺を前に気合の乗った先生にとって、船酔いなど恐れるに」

「「黒いわ!!」」


墨汁でベタ塗りしたかのような殺せんせーは、もう前後すらよく分からない。


「ヌルフフ、お忘れですか皆さん。先生には脱皮がある事を。黒い皮を脱ぎ捨てれば、ホラもとどおり」


日焼けした黒い皮を脱ぎ捨てて、殺せんせーはいつも通りに戻った。月一回の脱皮だ。


「こんな使い方もあるんですよ。本来はヤバイ時の奥の手ですが……あっ」


自分で戦力を減らした事に気が付き、殺せんせーは頭を抱える。だけど料理が運ばれて来ると、打って変わって元気になり、料理にがっつく。まあ腹が減ってはなんとやら、皆も殺せんせーに気を付けながら食べ始める。


「カルマぁ、牡蠣あげるー」

「自分で食べなよ、それくらい」

「だって気持ち悪いじゃん、生ってさぁ。火が通ってないと食べたくないのー」

「ガキ」

「うっさい」


カルマの皿に生牡蠣を強引に移す。私達のナマモノを巡る攻防に、同じテーブルの渚くんとカエデは笑っていた。


[14/10/28]






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