「因果、忘れ物無い?」

「……ん、大丈夫(だいじょーぶ)」


荷物の最終チェックを終え、カルマと二人、色違いのキャリーケースを引いて集合場所の学校へ。そこから貸切りバスで港に向かい、南の島行きの船に乗船。船内の一角、カルマの横で大きく欠伸をしていると、四班女子から船内探索に誘われた。


「因果、外出るなら帽子被って出なよ」

「はーい」


行こうとした矢先、カルマが帽子を被せてきた。双子なのに日焼けすると私だけ真っ赤になって、何度も痛い目にあってるから。日焼け止めは塗ってるけど、念には念を入れてという訳だ。

四人で船内を一周回ってから甲板に出ると、殆ど全員が楽しそうにそこにいた。殺せんせーはもう酔ったのか具合が悪そうだ。潮の匂いが鼻を掠める。海は好きだけど髪がベタつくのは嫌だな。あと砂浜で飛び跳ねるちっちゃい虫も嫌い。


「因果!あっちの方で何か跳ねたよ!」

「んー?」


何かを見付けてはしゃぐカエデに腕を引かれた時、タイミングよく一際強い潮風に煽られて帽子が私を離れた。


「あっ、」


急いで手を伸ばしても後少しのところで届かなくて。半ば諦め気味にふわりと舞い上がった帽子を目で追うと、誰かの手の中に収まった。


「烏間センセー!」


帽子を取ってくれたのは意外にも烏間先生で。すぐに駆け寄ると、優しく帽子を被せてくれた。


「っ!」

「もう飛ばされないようにな」

「あ、ありがとー」


優しい表情の烏間先生を前にして、突然の動悸。思わず吃ってしまった。先生は船内へと戻り、姿が見えなくなると動悸も治まった。…なんだろう、これが俗に言う不整脈ってやつかな。カエデ達の所に戻り、飛ばされないように帽子を深く被った。


「良かったね、烏間先生が取ってくれて」

「んー、本トに」

「やっぱり身長って重…要……」

「カエデ…、」


自分で言ってがっくりと肩を落としたカエデ。胸だけじゃなく身長も気にしているようだ。風に靡くスカートの裾を押さえた時、愛美の視線に気が付いた。


「愛美ぃ?どーかしたぁ?」

「あっ、いえ…。因果ちゃんの服、可愛いなと思って。どこのブランドなんですか?」


するとカエデと有希子も可愛いと言ってくれた。カエデ曰く、見た目の派手さからは想像もつかない程女の子らしくて清楚な感じらしい。褒めてくれるのは嬉しいけど、


「んー…分かんない」

「え?」

「あ、ブランド関係無く気に入ったお洋服だけ買ってるの?」

「んーん、違うよー。全部カルマが選んだのを着てるだけだからぁ、ブランドとか良く分かんないんだー」


三人ともぽかんとしている。すると横から誰かに飛び付かれた。倒れないように何とか踏ん張る。


「因果!私も話に交ぜて!」

「陽菜乃…私の服は全部カルマのチョイスってだけぇ」

「そーそー、因果、服のセンス皆無だから俺が選んでんの」


ふらっと現れたカルマと渚くん。質問攻めに発展しそうな雰囲気での助け船は嬉しいけどセンス皆無は聞き捨てならない。


「別に皆無じゃないしぃー」

「皆無じゃん。上下黒しか選ばないし、少し目を離せば俺のお古着ようとするし」

「うー…服なんて着れれば同じだってぇ」


だってどうせ布だし。カルマのお古で事足りるのに。カルマはそれが嫌みたい。

……あれ、そう言えばいつからだっけ。カルマが私に一目で分かるような、女の子らしい服を選ぶようになったのは。


[14/10/26]






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