《not因果》

早いもので沖縄での暗殺が一週間後に迫った今日。生徒達は大事なその日の為に集まり、訓練に作戦の詰めとやることが山積みだ。更に特別講師としてロヴロを招き、訓練にも熱が入る。

ロヴロは今回の計画書に目を通していく中で、要とも言える射撃に目をつけた。そしてクラスの中でも射撃能力の高い千葉と速水に舌を巻き、烏間もその評価を肯定する。


「ところで、赤髪の生徒は何処だ?」

「赤髪?」

「一度しか見ていないが…彼女の腕も中々の物と見る」

「ああ、それは赤羽…」


烏間の言葉を遮るように音を立てて割れた風船。発砲音は一回、しかし破裂音は連続して三回。今は射撃練習をする生徒が入れ替わっていた為、的である風船を割ったのは生徒ではない。風船は向かって左側から割れた。従って左方向に視線を向ければ、右手に銃を持った因果が立っていた。私服であるところを見ると、今着いたばかりなのだろう。


「そう、彼女だ」

「赤羽因果。ナイフ術もクラス上位の成績だが、射撃能力は頭ひとつ飛び抜けている」

「揺れる風船が横一列になった一瞬を狙い、一発で三つ撃ち抜く。…俺の目に狂いはなかったようだ」


何やら左手に黒いケースを持った因果が烏間の元へとやって来た。


「遅刻だぞ、因果」

「コレ取りに行ったら時間掛かっちゃってぇー。あ、ロヴロさんだぁ」

「今回の為の特別講師だ」


大して反省の色が無い彼女が持つケースに烏間の視線が向く。


「それは?」

「んー、私物の得物だよ」


ケースを丁寧に地面に置いて開くと、中に入っていたのは狙撃銃だった。クラスの中で因果だけが政府から支給された物ではなく、自前の銃を使用している。しかも対先生弾が撃てるように改造まで施している力の入れようだ。


「ほう、SV-98か」

「ドラグノフでも良かったんだけど、精度優先でSV-98(こっち)にしたの。まぁー使うかは分かんないけどねー」


そう言いながら先程風船を撃ち抜くのに使った銃をロヴロに見せる。


「あとねぇ、作戦によってはデザートイーグルを使おーと思ってるんだぁ。こっちは防水加工済みー」

「自分で改良したのか?」

「出来たら凄いだろーけど、殆どは仲の良(い)ーサバゲーショップの店長にやってもらったの」

「良い出来だな」

「ありがとーロヴロさん」


嬉しそうに笑い、ロヴロと銃談義を交えた因果は、得物を持って私服のまま射撃訓練に加わった。


「彼女の言っていた店長だが、少し調べた方が良いだろう」

「…どういうことだ?」

「これはあくまで俺の勘だが、ただの一般人ではないような気がしてな」

「……」


ロヴロと烏間の会話など知る由も無い因果は、呑気に訓練を続けている。そんな彼女を、烏間は少し心配そうに見詰めた。


「しかし実に良い腕だ。彼女はこの春から訓練を始めたのか?」

「いや、元々サバイバルゲームが好きで、銃に触れる機会が多かったらしい。射撃の経験はクラス一だろう」


烏間は以前、因果に過去の射撃経験について聞いたことがある。その時の話によると、中学校に上がってすぐ、従兄弟の影響でサバイバルゲームにのめり込んだらしい。


「彼女の腕は積み上げてきた経験の賜物と言うところか。ふーむ、三人共俺の教え子に欲しい位だ」


プロの目から見て、三人の射撃能力をこの教室だけに留めておくのは勿体無いのだろう。そしてロヴロは、今回の作戦は成功の可能性が十分あると評価した。


[14/10/16]






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