「因果も良かったら本校舎の図書室で勉強しないか?渚や茅野も来るんだけど」 磯貝からの誘いなんて珍しい。本校舎の図書室はいつも予約で一杯だから、こんなチャンス滅多に無い。 「んー、行くー。日直の仕事終わったら行くから先に行っといてー」 「分かった、じゃあまた図書室で」 眠そうなカルマに放課後少し残ると一言伝えてから、日直の仕事を早めに終わらせる。殺せんせーに日誌を渡して廊下を出ると、烏間先生と顔を合わせた。 「因果…?」 「んー?なにセンセー?」 「その格好、どうしたんだ?」 「殺せんせーにやられたのー。地味だし変だからあんまり見ないでぇ」 「おかしくはないぞ。これはこれで新鮮でいいんじゃないか?」 「!…あり、がと。じゃね、センセー。また明日」 先生はいつでも私を肯定してくれる。その優しさに甘えてばかりでは駄目だけど、それが妙に心地好くて。このままだと深みに嵌(は)まりそうで、少しだけ怖くなった。 *** 「赤羽因果か?」 本校舎の図書室に向かう廊下の途中。一番逢いたくない奴に出逢ってしまった。最悪。 「……なに、浅野。私急いでるんだけど」 浅野学秀、あの理事長の一人息子だ。生徒会長で、元クラスメイト。 「やっぱり君か。いつもの派手な格好はどうしたんだい?」 「…ただの罰ゲームだよ。明日には元に戻す。話はそれだけー?」 「いや、まだある。今回の期末テストこそ君に勝つ。過去全て横並びだったからね」 「あっそ。私はいつも通り点を取るだけだから」 「その強気な所、嫌いじゃない」 「そりゃあどーも」 私は一々突っ掛かってくる浅野が嫌いだ。相手をするのが面倒になる程話が長いし。 「A組に戻って来るんだ」 「……」 「君に相応しいのはあんなE組(掃き溜め)じゃない。A組、そして僕の隣こそ君の居るべき場所だ」 ほら、面倒臭い。浅野の隣なんてファンからの嫉妬を集めるだけだから嫌だ。それに今はその“掃き溜め”の方が楽しいし。…時間が勿体ない、早く切り上げないと。 「はいはい、期末五教科で浅野が勝ったら今言った通りにしてあげる」 「!…言ったな?」 「二言は無い。けど、あんたが負けたら一々話し掛けないでよねぇ。鬱陶しくてたまんない」 「…良いだろう。五教科の合計点で勝負だ。僕が勝ったら、A組に戻って僕と付き合え」 「分かった。それと、あんたが負けたら毎回しつこく付き合えだなんて言うのも無しねぇ」 それで話がついた。私が勝ったら今後浅野は不必要に話し掛けない、絡まない。仮に私が負けたら、A組に戻って浅野と付き合う。けど、A組復帰なんて理事長がどう判断するか分からない。一度断ってるし。それに付き合えだなんて一体何を考えてるんだか。向こうにメリットがあるようには思えない。 浅野と別れてから、そんな思考を巡らせて図書室までやって来た。 「死ぬよりキツい命令を与えてやるぜ!!」 捨て台詞を吐いて、逃げるように図書室から出て行く五英傑と擦れ違った。一体何だったのだろう。 「お待たせー。で、何かあったのー?」 「因果…実は、」 磯貝曰く、成り行きではあるもののA組と賭けをすることになったらしい。…どうしてこう面倒事が重なるんだか。 [14/09/13] |