「そこまで!!勝負ありですよね、烏間先生」


殺せんせーは渚君の背後に回り、彼の手からナイフを取り上げ処分するように咀嚼した。笑顔の皆に囲まれる渚君。その中で今し方の光景が信じられなかった前原に叩かれていたのには笑った。

皆がほっとしたのも束の間、完全にキレた鷹岡が立ち上がった。


「もう1回だ!!今度は絶対油断しねぇ。心も体も全部残らずへし折ってやる」


渚君は振り返り、鷹岡を見据えて凜として言った。


「僕等の「担任」は殺せんせーで、僕等の「教官」は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押しつける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕はあったかく感じます」


僕は、って言ったけれどそれはE組全員が思っていることだと思うし、私だってそうだ。渚君が頭を下げれば更に鷹岡の頭に血が上り、とうとう渚君に襲い掛かった、が。

凄まじい音を立てて鷹岡が倒れた。烏間先生が肘で一発食らわせたのだ。


「……。俺の身内が…迷惑かけてすまなかった。後の事は心配するな。俺1人で君達の教官を務められるよう上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ」


ならば先に上に掛け合うと言った鷹岡。


「交渉の必要はありません」

「「!!理事長…!?」」


どういう訳か突然理事長登場。理事長の教育理念から考えると鷹岡の続投を言い出しそう。


「でもね、鷹岡先生。あなたの授業はつまらなかった」


そう言って理事長はその場で解雇通知を書き、鷹岡の口に詰め込んだ。


「椚ヶ丘中(ここ)の教師の任命権は防衛省(あなたがた)には無い。全て私の支配下だという事をお忘れなく」


そうして鷹岡は走ってE組を去った。鷹岡がクビとなり、教官はこれまで同様烏間先生だ。皆から歓声が上がる。ふと理事長を目で追えば、視線が交錯した。


「おや、酷い怪我だ。早く病院に行った方がいい」

「…ええ、そーしますよ」


それだけ言葉を交わし、理事長は本校舎へと戻って行った。莉桜と陽菜乃が烏間先生に強請り、放課後皆で食べたいものを烏間先生に奢ってもらうことになった。

さて、鼻血も止まったことだしもう帰ろう。ただノートを取りに来ただけなのに足止めを食らっちゃった。またカルマに怒られるだろうな。


「因果」

「…センセー」


あ、烏間先生怒ってる。


「俺が何を言いたいか分かるか?」

「一時の感情に任せて後先考えずに無茶をするな、とかぁ……」

「分かっているならどうして、」

「友達が傷付くのを黙って見ていられなかった。ただそれだけだよ、センセー。多分何度言われよーと、また同じ状況(じょーきょー)に置かれたら私は同じことを繰り返すよ」


真っ直ぐ先生の瞳を見詰めれば、先生は呆れたように溜め息を吐いた。


「だからね、センセー。その度に私を止めて?」

「止めても無茶するだろう?」

「んー。だけど、結構効き目あるんだよ」


あの時先生の声で鷹岡にナイフを突き刺すことはなかった。だけどそれが自分の呼び声によるものだとは気付いていないようだ。


[14/07/01]






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