カルマの様子が可笑しいことに帰宅してすぐに気が付いた。私と瓜二つの兄の部屋を訪れると、電気も点けずに薄暗い室内で爪を噛んでいたのだ。爪を噛むのは苛立った時に見せるカルマの悪い癖。八つ当たりを受けたくないけど原因が気になるから隣に座る。


「…なにかあったのー?」

「……人って、生きてても死ぬんだね」

「?…なにそれ」


カルマの話を簡単に纏めると、味方だと言ってくれていた先生が簡単に裏切ったらしい。カルマは私より純粋だから、他人なんかの言葉を真に受けちゃった結果だと思う。成績は良かったのにこれでカルマもE組落ち。E組(弱者)を助けて悪いなんてやっぱりこの学校は狂ってる。…久々に頭にきた。


「……」

「…因果?」

「ちょっと…学校行ってくる」


立ち上がって部屋を出ようとしたらカルマに手を引かれた。多分キレてることバレてる。だって双子だもん、少しの変化だってすぐに見抜けてしまう。


「…ねぇ因果、俺…間違ったことしたのかな……」

「カルマは正しいよ」

「……!」

「誰がなんと言おうとカルマが正しい。……私はそう思うよー」

「…ありが、と」

「じゃー行ってきまーす」


そうだ、カルマは間違ってない。間違ってるのは“むこう”の方だ。

自宅を飛び出して電車に乗り、また学校に戻って来た。野球部の部室に忍び込んで金属バットを借りてから大野の所に向かう。その途中私が自分達より成績が良いことに嫉妬して難癖付けてきた奴らを死なない程度にバットで撲った。それから目についた廊下の窓ガラスを割って、ずるずるとバットを引き摺りながら廊下を歩いていたら大野を見付けた。目が合った途端急に怯え出した、バカみたい。


「あっ、赤羽…!何してるんだ……!」

「くすっ、なにビビってんですかぁー?センセー」

「ヒッ…!」

「センセー、私E組に行きたいんですけどー」

「なっ…!?お前は成績だけは良いんだ!そんなのダメに決まってるだろ!」

「…ふーん…。なら、強行手段ってことでー」


そして私はバットを降り下ろした。

その後すぐに取り押さえられて、その場で停学とE組への転級を言い渡された。やっぱり勉強はしておくモンだね。普通なら警察沙汰の傷害事件なのに成績だけは学年トップだったからそれだけで済んだ。

家に帰ってカルマに一部始終を話したら驚かれた。


「何でそんなコトしたわけ?」

「んー頭にきたから?それにー、カルマと一緒に居たかったんだもん」

「…可笑しなやつ、」

「だって私、あの赤羽カルマの妹だからねー。…カルマの喧嘩に巻き込まれるのはゴメンだけどー、一緒にいるとツマンナイ学校も楽しいんだぁ」


事実を言っただけなのにカルマが私は抱き竦めた。珍しく甘えたがりのカルマが出たようだ。こうなると中々放してくれないからツラい。…でもまあ、今日くらいはいっか。


「3年からE組だねー。楽しいコト起きれば良いなぁー」

「宇宙人が攻めてくるとか?」

「えー、それは無いよー」


そう言って笑い飛ばしたことが現実になるなんて、この時の私達は知る由も無かった。


[12/08/07]






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