今日から衣替えだ。冬服とは一変して見た目も重さも軽くなった制服。去年の夏は水色のワイシャツだったから、今年はセーターと同じ薄ピンクにしてみた。やっぱり薄手だと夏って感じ。カーディガンが無い分、武器を隠すのが大変だけど。

皆私を見ては「あぁ…」という反応を示した。なにさ「あぁ…」って。カエデには「流石だね」なんて言われたけど、よく意味が分からない。そんなたわいない話をしていると、左腕に派手な模様の入った菅谷が登校して来た。


「さらしたくなかったぜ。神々に封印されたこの左腕はよ…」


クラス中が菅谷の姿に絶句している。けれどそれはただのペイントで。インドのメヘンディアートだ。


「よ、良かった…!先生てっきりうちのクラスから非行に走る生徒が出たかと」

「…相変わらずそういうとこチキンだよね」


刺青だと思ったらしい殺せんせーはいつの間にかカウンセリングや心理学の本を積み上げて読んでいた。菅谷の説明にほっとした殺せんせーもペイントに興味があるらしく菅谷に描いてもらうようだ。


「楽しみですねぇ。先生こういうイレズミみたいの一度は描いてみたかったんです」


塗料が殺せんせーの顔についた瞬間、その部分が溶け出した。悲鳴が教室に響く。どうやら対先生弾を粉末にして塗料に練り込んだらしい。


「…ていうか、先生ふつうにカッコいい模様描いて欲しかったのに」

「わ、悪かったよ!普通の塗料で描いてやるって」


しくしくと泣き出した殺せんせーに、菅谷は普通の塗料でペイントを施した。それを皮切りに皆が口々に描いて欲しいと言い出し、両腕ないし片腕に菅谷が一人ひとりに描いていく。


「因果はどうする?」

「んー…じゃーさぁ、首か鎖骨辺りに描いてよ」

「はいはい」


一人ひとり違った模様だけど腕に描いてもらうのは単調だから私は首から鎖骨にかけて描いてもらった。鏡で確認するとそこには綺麗な蝶と華が。流石菅谷。

一通り描き終わった所で、教室に入るなりイリーナが悲鳴を上げた。まあ入った瞬間皆がペイントしてるんだから驚くのも無理無いか。


「ところで菅谷君。見てたら先生も誰かに描いてみたくなってきました」

「いいけど…皆に描いちゃったから…。もうまっ白なキャンバス因果くらいだぜ」

「私は嫌(や)」


腕でバツをつくって拒否すると、今度は夏服で露出の増えたイリーナが標的となった。


「ふざけんじゃないわよ!誰がそんな…」


後退りしたイリーナは落ちていた塗料で足を滑らせ、壁に頭をぶつけて気絶した。そしてイリーナを安静にさせている間に殺せんせーと菅谷が片腕ずつペイントを始めてしまった。菅谷は綺麗に纏めたが、殺せんせーは何故か漫画。本人曰くアートとかファッションは苦手らしい。

そして完全に殺せんせーの所為で悲惨な姿になったイリーナ。段ボールで作った兜まで被せてあるし、流石にこれには同情する。でも面白いから写真撮っておこう。


「……収拾つかなくなってきたな」

「どうすんだ?一週間は落ちねーんだろ、これ」


段々皆が不安になってきた所でイリーナが目を覚まし、何も言わずに自分の状態を確認した後、教室を出て行った。けれどすぐに殺気を纏いながら両手に本物の銃を持って戻って来た。


「死ね!!あんた達皆殺しにしてやるわ!!」

「ごっ…ごめんなさい。つい熱中してしまって…。でも教室壊れるから実弾はやめて!!」


殺せんせーに向けて実弾を発射するイリーナ。全員が急いで机の陰に隠れ、杉野がイリーナを羽交い締めにして動きを止める。


「やめろってビッチ先生!!すぐ落とせば定着しないらしいぜ!!」

「キーッ!!せっかくの夏服デビューが台無しよ!!」


杉野もキレたイリーナを抑えることは出来ないようで、銃撃は収まることを知らない。殺せんせーはお菓子で宥(なだ)めようとしているけど、それは無意味で。

そして最終的に騒ぎを嗅ぎ付けた烏間先生に一喝され、この騒動は幕を閉じた。それから皆で菅谷の指示の元、イリーナのペイントを落としたのだった。


「烏間センセー、イリーナのペイント全部落としたよー」

「そうか……因果、」

「んー?」


先生への報告も済ませたことだから教室に戻ろうとした時、不意に呼び止められた。じっと見てくる先生。視線から首のペイントを見ているのかと思ったら、静かに先生の手が伸びてきた。


「暑いのは分かるが第二ボタンは留めておけ。過度な露出は控えた方が身の為だぞ」


そう言いながら先生は私のワイシャツの第二ボタンを留めた。まあ先生の言いたいことは理解出来るけど。


「中に着てるし、イリーナ程じゃあないのに…」

「彼女は特殊だ。比較する相手が間違っている」

「…はぁ…分かったってぇ、これからは閉めとくよ。その代わり、」


今度は私が先生の首に両手を伸ばす。


「…!」

「センセーは開けといてよねぇー?見てて暑苦しいからさぁ」


外では蝉が鳴き始めているというのに相変わらずきっちりと着こんだワイシャツの第一ボタンを外して、ネクタイも軽く緩めた。へらって笑いながらそう言えば、烏間先生はどこか面食らった様子だ。


「…分かった。が、あまり無差別にこういう事はするな」

「?…センセーも同じ事してきたのにぃ」


[14/05/08]






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