イリーナの所に泊まるという名目のもと、今日は烏間先生の家に泊まることになった。因みに先生は入浴中で、私は一人内輪ネタで盛り上がっているだけのバラエティー番組を眺めている。面白くない。リモコン片手に各局の番組を観ていき、学園もののドラマに落ち着いた。ドラマにはあまり興味が無いからこれは初めて観るけど、カエデが面白いって言ってた気がする。


『先生っ…私、先生のことが好きなの……!』

『実は俺も篠原のことが、』


実にありがち。学園物での教師と生徒間の恋愛は定番だろう。けれど実際問題こんなことはあるのだろうか。


「因果」

「んー?」


呼ばれて視線を移せば、お風呂上がりの烏間先生が。普段セットしている髪を下ろしている先生はいつも以上に格好良かった。格好良すぎて一瞬ドキッとする位。


「実は敷き布団が無くてな。悪いんだがソファーで寝てもらっても良いか?」

「寝れるならどこでもいーよ。あ、私寒がりだから布団は少し多い方が良いなあー」

「分かった。…こういうドラマが好きなのか?」

「んーん、ただの暇潰しぃー」


先生の視線がテレビに向いたから、私も同じようにそちらを向く。テレビの中では周囲の目を盗んでちちくりあう教師と生徒。…段々気不味くなってきた。


「センセーはさぁ、本トにこんなことがあると思うー?」

「…教師と生徒と言えど所詮男と女だからな。無いとは言い切れないんじゃないか。…とは言え、生徒に手を出す時点で教師失格だ」

「無いとは言い切れないってことはー、センセーももしかしたらー……?」

「ある訳ないだろう」


こつっと先生に頭を小突かれた。あんまり痛くない。…まあ、当たり前と言えば当たり前か。地球滅亡まで時間が無い、校内恋愛以前に普通の恋愛をする余裕すら無いだろう。でももし先生が生徒と恋愛するならE組の中の誰を選ぶのか気になったが、聞いたら怒られそうだったからぐっと堪えた。


「…因果、その腕の怪我はどうした」

「え?…あー、昼間の、」


掠り傷だったから自分でもすっかり忘れていた。この傷が出来た経緯を話せば烏間先生は眉間に皺を寄せて、消毒液やガーゼなどを取り出して来た。そのまま腕を出せと言われ、あれよあれよという間に手当てされた。


「あまりとやかく言うつもりは無いが、喧嘩は控えた方が良いぞ」

「今日(きょー)のは向こうが売ってきたから買っただけだってー」

「だが生傷が絶えないというのは見ているこっちも辛いものがあるんだ。修学旅行の時も言ったが、傷が残ったらどうする」

「んー…、もし傷が残って結婚出来なかったらさぁ。その時までセンセーが独身だったら私のこと貰ってよぉ」


修学旅行の時と同じ会話。また同じ様な答えが返ってくるだろうとへらへらと笑って待つ。


「……独身だったらな」

「えっ…?」

「布団取ってくる」


聞き間違いかと思った。だって先生がそんなことを言うなんて思ってもみなかったから。声のトーンが冗談っぽくなかったけど、今のは冗談なのだと自分に言い聞かせた。



***



カチカチと秒針が時を刻む音が煩く感じる。短針は既に二時を示しているのに、一向に眠くならない。多分さっき寝たからだと思いつつ、ソファーの上で慎重に寝返りをうつ。…烏間先生、まだ起きてるかな。ゆっくりと立ち上がり、先生の部屋に向かう。部屋の前まで来た所で、やっぱり迷惑だよなとノックするのを躊躇してしまう。ノックしようと上げた右手を下げてリビングに戻ろうとした時、突然扉が開いた。


「因果?」

「っ…センセー、私…」

「眠れないのか?」

「…人肌恋しーっていうかぁ…」


部屋の前までやって来た私の気配に気付いていたのであろう先生が部屋から顔を出し、眠れないと応えると先生は少し考えてから寝室に入れてくれた。やっぱり私も女の子の端くれだし、控えめに先生のベッドに潜り込んだ。なんと言うか先生のぬくもりと匂いでいっぱいで、自分では意識していないつもりなのにどきどきしてしまう。


「…因果、多少は危機感を持ったらどうだ」

「だって、センセーはセンセーでしょー?」

「……そうだな。野暮な質問だった」


分かってる、分かってるよ。先生は男の部屋にのこのこやって来るな、って言いたいんだよね。それ位私だって理解してる。

先生は私の左隣で、少し間を開けてベッドに入った。けれど横になろうとはせずに上半身を起こしたまま。どうしたのかと横向きになって先生に右手を伸ばせば、その手をぎゅっと握られた。更に空いている片手で頭を撫でられた。唐突過ぎて意味が分からない。


「せ、センセー…?」

「人肌恋しいんだろう?」


確かにそう言ったし、どこか落ち着くけれど。手を握られて、頭を撫でられて。ここで子守唄でも歌われたら小さい子供の扱いとなんら変わりは無い。


「私もー子供じゃぁ…」

「俺からみればまだまだ子供だ」


ぴしゃりと言いつつ頭を撫でる先生の手は止まらない。程よいぬくもりから、あれだけ目が冴えていたのに段々と眠くなってきた。うつらうつらと、目蓋が落ちそうになる。先生が何か言ってるけど意識が飛んでよく聞こえない。それでも、最後まで聞こえたのは先生の声だった。


「おやすみ、因果」


[13/12/26]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -