「…手ぇ、痛い」

「っ…す、すまない」


これまでの態度とは一変して慌てて私から離れる烏間先生。多分我に返って今の状況を客観的に考えたんだと思う。結構強く握られていたから手首が赤く色付いている。


「強く握り過ぎた、か。赤くなってしまったな……。すまない、大人気なかった」


先生はまるで腫れ物に触るように私の赤くなった手首に触れた。眉尻を下げて本当に申し訳なさそうにしている。


「…んーん、全部…私が悪いんだからさぁ」

「因果、そんな泣きそうな顔をするな」

「えっ……?」


私はそんなに泣きそうな顔をしているのだろうか。確かに目が潤んできた気がするが…。どちらにせよ先生にだけは泣き顔を晒したく無い。そのまま烏間先生の胸に飛び込んだ。


「っ…因果!」

「…ちょっとだけ、だからさぁ」


あ、デジャヴ。前にもこんなことあったな、なんて。先生の顔は見えないけど、どうしていいか分からないような雰囲気なのは何となく分かる。

それから一拍間を置いて片手で抱き寄せられて、もう片手で頭を撫でられた。その瞬間胸がドキッとした。…なんでだろ、突然のことに驚いた訳じゃないし。


「…せん、せ……?」

「少しは落ち着いたか?」

「……うん、」


烏間先生の裏表の無い優しさから、落ち着くどころか余計に泣きそう。それ以外先生は何も言わずに頭を撫でてくれる。それが心地好くて、駄目だと分かりつつも眠くなってきた。



***



気が付いた時、私はソファーの上で横になっていた。どうやらまた眠ってしまったようだ。上半身を起こせば、手触りの良いタオルケットがずるりと落ちた。叩き起こしてくれても良いのに、態々ここまでしてくれるなんて。烏間先生がいかに律儀で紳士なのかを実感する。


「起きたか」

「…おはよ、センセー」

「おはよう、だがもう七時だぞ」


その言葉に壁掛け時計に目をやれば、確かに夜の七時を過ぎていた。外を見れば完全に陽が落ちている。少し寝過ぎたかもしれない。


「一応飯は作ったんだが、食べるか?」

「んー、食べたい」


先生の手料理が食べれるなんて私は運が良い。そんなことを考えていると、差し出されたのはオムライスとナポリタンのワンプレートだった。何だかお子様ランチみたい。


「食材が無かったからこんな物しか出来なかったが」

「充分(じゅーぶん)だよ。いただきまーすっ」


オムライスを一口。卵が半熟でふわとろ、しかもアクセントにチーズが入ってるから凄く美味しい。私も今度チーズ入れて作ってみよ。


「んっー、すっごく美味しぃーよセンセー」

「そうか」


笑顔で伝えれば、烏間先生も安心したように微笑んでくれた。ナポリタンも普通に美味しい。私はナポリタン派だけどカルマはミートソース派なんだよな、なんてふと思い出した。


「因果」

「んー?」

「付いてるぞ」


私の顔に伸ばされた手。どうやら口の横にご飯粒が付いていたらしい。子供っぽいと思われたかな。なんて考えていると、先生は取ったご飯粒をごく自然な動作で食べた。


「っ……!」

「どうした?」

「ん、んーん。…何でもない」


無自覚って怖い。カルマにも昔同じことされたけど、何だか今は変な気分。居心地が悪い、に近い感じ。“それ”の名前が分からないまま、プレートを完食した。


「ごちそーさまでしたぁ」

「そろそろ帰、」

「りたくない」

「ハァ…、因果」

「まだ、帰りたくない」


そう言えば、烏間先生は困ったように携帯を取り出した。


[13/09/10]






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