烏間先生は結構値の張りそうなマンションに住んでいた。部屋に着くなり私はバスタオルと着替えを渡されて風呂場に放り込まれた。雨で濡れた服を言われた通り洗濯して、厚意に甘えて広い湯船に浸かり冷えた身体を温める。


「……私、何してんだろ」


小さく呟いた言葉は水音に掻き消された。

長風呂もよくないだろうと思い、頃合いをみて手早く上がり渡された着替えに袖を通す。渡されたのは黒いTシャツと半ズボン。だけど烏間先生サイズだからTシャツは太股の真ん中位の丈になり、凄く短いという訳でもないからTシャツ一枚でリビングに向かった。

リビングに入ると烏間先生は電話中だった。どうしていいか分からずその場で電話が終わるのを待つ。リビングは物が少なくがらんとしていて何処か寂しい感じがした。きっとここは政府が用意した殺せんせーを殺すまでの仮住まいなんだと思う。


「――…はい、では失礼します」


電話が終わると一息ついたように肩を落とし、黒の視線がこちらに向けられた。


「今担任として親御さんに連絡をした」

「……え、」

「無事保護したので本人が落ち着き次第自宅まで責任を持って送り届けます、とだけ伝えたからな」

「…ありがとう、ございます」


表面上のことだけで深くは何も伝えてないらしい。そして促されるままソファーに腰掛けると、マグカップを二つ持った先生が少し間を空けて私の隣に座った。


「こんな物しか無いが…取り合えず飲んでろ」

「…ありがとぉ、センセー」


手渡されたマグカップは先生の心と同じように温かかった。中身はホットミルク。因みに先生はコーヒー…見たところブラックコーヒーだった。静かに息を吹き掛けて冷ましてから口をつける。甘党な私のことを思ってくれたのか、ホットミルクは程好い甘さで美味しかった。


「…因果、一つ良いか?」

「……?」


何だか真剣な目をした烏間先生。一体どうしたのだろうか。持っていたマグカップをテーブルに置いて視線を合わせる。


「公園で話し掛けてきた男に、一瞬でも付いて行こうと思ったか?」

「!…センセ、何言って……」


その刹那、私は烏間先生の手によってソファーに押し倒されていた。両手が押さえ付けられているから抵抗出来ないし、今の格好じゃ足技も出せない。Tシャツだけでいいやと思った自分を恨んだ。


「因果、君は確かに同年代の子達と比べれば強い。だがそれだけだ」

「…セン、セー…?」

「自分がまだ子供で、相手が大の男だとは考えなかったか?一人なら逃げる隙はあるかもしれない。だが付いて行った先に男の仲間が居たら、十中八九逃げられないだろうな」

「っ…私はただ……!」


初めて烏間先生の黒い瞳に恐怖した。怖くて、その視線が痛くて、とても哀しかった。酷い女だと思われたかもしれない、そう考えると何だか悲しくなってきた。


「因果が正義感から行こうとしたこと位分かっている。だがそれがどれ程危険な事か考えてくれ」


その声が微かに震えていたように聞こえたのは気のせいだろうか。修学旅行の時も先生は人一倍私のことを心配してくれた。多分今も、そうだ。私が心配してくれている人の気も知らずに自分の身を危険に晒す後先考えない馬鹿だから、柄にも無いことをして私が如何に子供で無力かを思い知らせようとしたんだと思う。

その結論に至った瞬間、申し訳無い気持ちと自分の馬鹿さ加減に呆れて泣きたくなった。


「っ…心配かけて…ごめん、なさい…」


[13/09/03]






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