「――…相性が悪いものは逃げずに克服する!!これから先発音は常にチェックしてるから。LとRを間違えたら…公開ディープキスの刑よ」


イリーナの英語の授業。教材としてテレビでは某海外ドラマを流している。…あれ、映画だっけ?まあどっちでもいいや。そんなことより眠い。


「因果!私の授業で居眠りなんていい度胸ね」

「んー?聞いてる聞いてるぅー」

「それじゃあLとRの発音の区別が出来るかテストよ。really、言ってみなさい」

「really」

「…で、出来てるわね」

「じゃー寝るねぇ」

「ダメ!」


結局この時間、イリーナは寝かせてくれなかった。それから居眠り出来ない授業が重なり、帰る頃には欠伸を噛み殺せない程睡魔に襲われていた。


「ほら、帰るよ」

「うー…、」


カルマに手を取られながら、ふらふらと教室を出る。廊下に出た時、物陰から微かに視線を感じた。そこに人がいる訳がないと、自分自身を安心させるように太股のホルスターからエアガンを抜いて物陰に一発撃ち込んだ。BB弾がかつんっと音を立てて壁に当たり、コロコロと床に転がった。


「何、ネズミでもいた?」

「……何か居たと思ったんだけど…気のせぇーみたい」

「ふーん…?だからって無闇矢鱈に撃つなよ」

「んー、以後気を付けまーす」


エアガンをホルスターに仕舞い、カルマに手を引かれてまた歩き出した。



***



翌日の体育の授業。物陰の明白に不自然な人物達が烏間先生を狙っていることに全員が気付いていた。微妙な空気に烏間先生が授業最後に説明してくれた。それによると、イリーナの今後を賭けて彼女の師匠と烏間先生を標的とした模擬暗殺を行っているらしい。期限は一日、どちらが先に烏間先生に対殺せんせー用ナイフを当てられるかの勝負のようで。先生も同情する程の苦労人だ。


「――…今日の体育はこれまで、解散!!」


烏間先生に一言声を掛けようと思ったら、イリーナが普段とは全く違う猫撫で声で先生を呼んだ。彼女の手には怪しげな水筒が。


「おつかれさまでしたぁ〜。ノド渇いたでしょ、ハイ冷たい飲み物!!」


私達にも何か入っていることがバレバレな飲み物を烏間先生に勧めるイリーナ。分かり易過ぎるそれに先生なんて呆れ返っている。


「おおかた筋弛緩剤だな、動けなくしてナイフを当てる。…言っておくが、そもそも受けとる間合いまで近寄らせないぞ」


その言葉にイリーナは水筒を地面に置き、明白に目の前で転んで見せた。


「いったーい!!おぶってカラスマおんぶ〜!!」


痴態を晒すイリーナに対し、烏間先生は「やってられるか」と校舎へと向かい出した。磯貝と三村に腕を取られて立たされたイリーナを見届け、殺せんせーと密かに取引をした烏間先生へと駆け寄った。


「烏間センセー」

「因果か、どうした?」

「センセーが余りにも苦労人(くろーにん)だから応援(おーえん)しよーと思って」

「俺はそんな風に見えるのか」

「んー」

「…そうか、」

「だから、頑張ってぇー」


そう言えば、烏間先生は少し疲れたように笑いながら私の頭を優しく撫でた。


[13/07/09]
title:水葬






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