「視線を切らすな!!次に標的(ターゲット)がどう動くか予測しろ!!全員が予測すればそれだけ奴の逃げ道を塞ぐ事になる!!」


烏間先生の声が校庭に響き渡る体育の授業。皆が必死で烏間先生にナイフを当てに行くのをただ眺めているだけ。大した痛みはなくなったものの、まだ完治していない右手首の所為で見学だ。


「……つまんない、」

「もう無茶はしないことですよ、因果さん」

「殺せんせーも烏間センセーと同じこと言ってるー。別に無茶なんてしてないもん」

「自分ではそう思っていても、周囲からはそうは見えないと言うことです」


殺せんせーと砂場で砂の城を作りながら言葉を交わす。ふと烏間先生の方を見てみると、先生の背後を狙う渚君が居た。当たり前のように渚君のナイフが烏間先生に届くことはなかったが、その時攻撃を防いだ烏間先生の動きはどこか不自然に見えた。思わず反射的に、本能で防いだような、そんな感じ。


「すまん、ちょっと強く防ぎすぎた。立てるか?」

「あ、へ、へーきです」

「バッカでー。ちゃんと見てないからだ」

「う…」


その光景に殺せんせーも何か考えているよう……に、見えなくもない。表情が変わらないからよく分からない。


「それまで!今日の体育は終了!!」


今回ばかりは退屈な時間がようやく終わった。欠伸をひとつしながら砂場から立ち上がる。


「今日はやけに大人しかったじゃん」

「んー、殺せんせーと砂の城を作るのに没頭してたからさぁ」

「没頭してた割りに因果のは城とは言えないけどね。流石画伯」


隣で小馬鹿にしたように笑うカルマ。まあ確かに城とは言えない悲惨な形だし、芸術的センスが皆無なのは自覚済みだけど。


「カルマだって同じよーなレベルじゃん」

「因果よりはマシだから」


差し出された手を取り、若干カルマに手を引かれる形で校舎に向かって足を進める。皆も校舎に戻る中、陽菜乃が烏間先生を放課後お茶に誘ったけれど、先生はそれを断った。


「……私生活でもスキがねーな」

「…っていうより…私達との間にカベっていうか、一定の距離を保ってるような」


皆が烏間先生に対してそう思っているのを聞くと、これまでの烏間先生とのことがやっぱり私だけで、どこか自分が特別なのだと優越感が湧き出してくる。そんなのは先生の優しさに私が甘え過ぎているだけだと理解しているのに。どうしても都合の良いように解釈してしまう。……あれ、そもそもどうしてそんな風に考えちゃうんだろ。


「厳しいけど優しくて、私達のこと大切にしてくれてるけど。でもそれってやっぱり…ただ任務だからに過ぎないのかな」

「そんな事ありません。確かにあの人は…先生の暗殺のために送りこまれた工作員ですが、彼にもちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ」


確かに、烏間先生はそこらの教師なんかよりも生徒と真っ直ぐ向き合う立派な教師だ。私を“私”として見てくれた。勿論殺せんせーもだけど。

その時、烏間先生と入れ替わる形で荷物を持った大柄な男が校庭にやって来た。


「やっ!俺の名前は鷹岡明!!今日から烏間を補佐してここで働く!よろしくなE組の皆!」


にこやかに笑う鷹岡という男が持って来た物は大量の有名洋菓子店のスイーツや飲み物だ。


「モノで釣ってるなんて思わないでくれよ。おまえらと早く仲良くなりたいんだ。それには…皆で囲んでメシ食うのが一番だろ!」


皆は鷹岡の周りに集まってスイーツを食べ初めている。烏間先生とは違う、生徒との距離感。皆が鷹岡に多少困惑しつつも懐き始めているのが目に見えて分かった。でも私は鷹岡が貼り付けている薄っぺらい笑顔がどうも気に食わなかった。多分隣のカルマも私と同意見だと思う。鷹岡を囲む皆を過ぎて校舎に戻ろうとすると、後ろからカエデに呼び止められた。


「二人は食べないの?すっごく美味しいよ!」

「俺はいいや」

「私もー」

「えっ!?カルマ君はともかく因果が食い付かないなんて珍しい」

「だってさぁ、」

「?」

「餌付けみたいじゃん」


[14/05/09]






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