次の日、登校すると寺坂が固定砲台にガムテープを巻き付けていた。 「寺坂ぁー、何してんのー?」 「授業の邪魔にしかなんねーから動かないようにしてんだよ」 「へー、寺坂がそんなに授業受けたがってたなんて知らなかったなぁー」 「ち、違げーよ!」 悪ぶってるけど結構真面目な所もあるんだよね、寺坂って。そして8時半になり固定砲台が起動したが、寺坂による拘束により銃が展開出来ず、今日1日は大人しくしていた。 *** 更に次の日。登校したら教室がやけにざわめいており、何故か皆が固定砲台を囲んでいた。何かあったのかな。 「あっ、おはようございます!カルマ君、因果さん!」 ……何か違う。一晩で完全に可笑しな方向に進んでいる転校生。体積は増えてるし、全身が映る液晶画面になってるし、姿は萌えキャラ?みたいな可愛い女の子だ。 「ねえ渚君、あれどうなってんの?」 傍にいた渚君にカルマが問い掛ける。すると渚君は少し困ったように口を開いた。 「あー…うん。殺せんせーが色々と手を加えたみたいで……。だから所持金5円だって」 5円って…殺せんせーもよくやるね。可哀想だから後で菓子パンでもあげよう。 休み時間になり、固定砲台は朝以上に皆に囲まれていた。体内で作ったミロのヴィーナスを見せている。 「へぇーっ、こんなのまで体の中で作れるんだ!」 「はい、特殊なプラスチックを体内で自在に成型できます。設計図(データ)があれば銃以外も何にでも!」 「おもしろーい!じゃあさえーと…花とか作ってみて」 「わかりました、花の形(データ)を学習しておきます。王手です、千葉君」 「…3局目でもう勝てなくなった。なんつー学習力だ」 桃花達と話ながら、もう一方では千葉と将棋を指している。同時に色々なことが出来るのは機械ならではって所かな。教室の前の方で渚君達と一緒にその光景を眺めていると、殺せんせーが呟いた。 「…しまった」 「?何が?」 「先生とキャラがかぶる」 「かぶってないよ1ミリも!!」 どうやら殺せんせーは固定砲台に人気を取られては不味いと思ったらしく、皆の輪の中に慌てて入って行った。 「皆さん皆さん!!先生だって人の顔ぐらい表示できますよ。皮膚の色を変えればこの通り」 「キモいわ!!」 玉砕して帰って来た殺せんせーは教卓の上で触手を抱えて泣いている。でもまあ確かにキモかった。 そしてメグの一言で固定砲台の呼び名を決めることとなり、優月の発案で自律思考固定砲台改め「律」となった。 「上手くやっていけそうだね」 「んー、どーだろ。寺坂の言う通り、殺せんせーのプログラム通り動いてるだけでしょ。機械自体に意志があるわけじゃない。あいつがこの先どうするかは…あいつを作った開発者(もちぬし)が決める事だよ」 *** 翌日登校した私達を迎えたのは、律になる前の自律思考固定砲台だった。どうやら開発者(もちぬし)が元に戻したようで、授業が始まると同時に生徒全員の意識は後方の固定砲台へと向く。そして射撃に備えたその瞬間、現れたのは機関銃ではなく造花の花束だった。 「……。花を作る約束をしていました」 予想外のことにこの場にいた全員が呆気に取られる。 「――…学習したE組の状況から私個人は「協調能力」が暗殺に不可欠な要素と判断し、消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠しました」 「……素晴らしい。つまり“律”さんあなたは、」 「はい、私の意志で産みの親(マスター)に逆らいました」 画面に映し出されたのは“律”の笑顔。これで昨日のカルマの言葉は覆された。 「殺せんせー、こういった行動を“反抗期”と言うのですよね。“律”は悪い子でしょうか?」 「とんでもない。中学三年生らしくて大いに結構です」 こうしてE組の仲間がひとり増えた。どうせなら私も後で何か作って貰おうかな。 [12/12/28] title:水葬 |