気が付いたら朝で、自分の布団で寝ていた。確か昨日烏間先生と話して…それから……。


「…あ、おはよう因果」

「おはよー、カエデ」


上半身を起こしてぼんやりしていると、隣のカエデが目を擦りながらゆっくりと起き上がった。まだ起床時間じゃないから起きている子は疎(まば)ら。自ずと声は小さくなる。


「ね、昨日のことなんだけどさぁ……」

「え?ああ…、」


昨日のこと、で通じたようで。カエデは枕元に置いていた櫛で髪を解かしながら口を開いた。


「因果ってばリラクゼーションルームで寝てたとかで、烏間先生が部屋まで抱えて来たんだよ?しかもお姫様だっこで」


烏間先生がお姫様だっこで私をここまで運んで来てくれた……?先生に寄り掛かった後いつの間にか寝てたってことか。てかお姫様だっこって……。運んで来てくれたのは嬉しいけど私重いのに……。


「…恥ずかしっ、」

「あはは、でも烏間先生涼しい顔してたし、気にすることないんじゃない?」

「そんなこと言っても……はぁ。顔洗って来る」


烏間先生が外してくれたのか、枕元の眼鏡を掛けて一緒に置かれた髪ゴムを手首に通す。そして鞄から洗面用具一式を纏めたポーチと化粧ポーチを取り出して、なるべく音を立てないように気を付けながら大部屋を出た。まだ静かな廊下を進んで共同洗面所へ。するとそこには先客が。


「おはよう、因果。早いな」

「あ、烏間センセー。おはよー」


見たところ洗面を終えたばかりの烏間先生が居た。先生の場所から1つ空けて鏡の前に立つ。


「センセ、昨日は運んでくれたみたいでありがとー。…重くてごめん、」

「当然のことだからな、気にするな。それに重くなかったぞ」

「うー…そんなこと言われても……」

「俺は子供一人で重いと感じる程ヤワな鍛え方はしていない」


ああ、そう言えば先生って自衛隊員なんだっけ?それじゃ素直に重くなかった、って受け止めて良いのかな。いや、でもな……。


「修学旅行も最終日だが、まだ班別行動が残ってる。今の内に奴を殺す準備をしておいてくれ」

「だいじょーぶだよ、烏間センセー。私はいつだって殺せんせーを殺す準備をしてるから」

「頼もしいな、特務部は君達兄妹に期待している。俺も出来る限りのアシストをするから、頑張ってくれ」

「…はぁーい」


そう言って烏間先生は部屋に戻って行った。期待されないのは嫌だけど、過大評価されて期待されて、結局出来なくて見捨てられる方がもっと嫌だ。唯一の救いは特務部が期待してるのであって、烏間先生の意思では無いと言うところか。先生にまで見捨てられたくはない。ぼんやりとくだらないことを考えながら、洗顔を始めた。



***



最終日、班別行動の時間。結果から言って、殺せんせーを暗殺することは出来なかった。隙だらけだけど、それを補うスピードには流石に敵わない。私達はここでの暗殺を断念して、楽しみの一つでもあるお土産屋巡りをすることにした。


「カルマぁ、家に何買ってくー?」

「お菓子二箱買ってけば文句言われないと思うけど」

「じゃー、一箱ずつ買ってこー?」

「オッケー」


このお店でおっちゃんのお土産も何か買って行こう。やっぱりお菓子が良いかな。


「ねえ、因果」

「んー?どーしたの、カエデ」

「このキーホルダー可愛くない?」

「んーっ、カワイーと思うよ」


カエデは見せて来たキーホルダーを買おうか悩んでいるらしい。どうしようかと愛美にも聞いてる。私もキーホルダーコーナーを見てみることにした。

ふと目に止まったのは、スマホのイヤホンジャックアクセサリー。数ある中でも白と黒の兎が一番可愛かった。2色セットだから1つ余るけどこの兎が欲しい。どうしようかな……。


「因果さんも悩んでるの?」

「あ、渚君。この兎、カワイーんだけど2つも要らないからさぁ。どうしようかと思って」

「確かにこれだと1つで充分だよね。…カルマ君に渡したら?」

「カルマは付けてくれないと思うから……あ、」

「どうしたの?」

「んーん、何でもない。やっぱりカワイーから買うことにするよ」


スマホを使ってる人がカルマの他にもいることを思い出した。断られたらその時はその時だ。そしてお土産のお菓子と兎のアクセサリーを買った。そのまま近くで殺せんせーを監視している、今さっき思い出した人物の元へ近寄った。


「烏間センセー」

「…因果か、どうした?」

「スマホ貸してー?」

「俺のを?」

「うん、別に何もしないからさぁ」


不思議そうにしながらもスマホを私に貸してくれた烏間先生。買ったばかりの黒兎のアクセサリーをイヤホンジャックに差し込んで先生に返す。


「これはなんだ?」

「先生にあげるー。因みに私と色違いだよー」


怒られそうだったから、誤魔化すように笑いながら私のスマホを見せる。先生と色違いの白兎が揺れる。


「……そうか」

「へ?」

「有り難く頂いておこう」

「う、うん」


怖いほどすんなりと受け入れられたことの方が怖い。


「買い物は済んだのか?」

「んーっ、買い忘れも無いよ。…修学旅行ももう終わりだね」

「…そうだな」

「でも全然ゆっくり出来なかったから、もう一回来たいなー」

「将来また来ればいい話だ」

「将来……なら絶対に暗殺成功させないとねぇ。その時は先生持ちで連れて来て欲しーなぁ」

「それまで覚えていたらな」


なんだか今日の先生は異様に優しい。まだ怪我のこと気にしてるのかな。


「因果ーっ、写真撮るから来てー!」

「今行くー!じゃね、烏間センセー。後で一緒に写真撮ろーね」


烏間先生にそう言って、手を振って私を呼ぶカエデ達の元へ駆け出した。

もうすぐ修学旅行が終わる。また来たいな、皆で、修学旅行。


[12/12/01]






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