私達の元へ駆け付けてくれた殺せんせーは掴んでいた不良達を乱雑に投げ捨てる。


「遅くなってすみません。この場所は君達に任せて…他の場所からしらみ潰しに探していたので。因果さんのGPSが先に見付かって攪乱の為に投げ捨てられている、という可能性もありましたから」


そう話す殺せんせーに、何故黒子のような顔隠しをしているのかと渚君が問い掛ける。どうやら殺せんせーは世間体を気にしているようだ。そんな殺せんせーはカルマ達に修学旅行のしおりを配る。


「……せ、先公だとォ!?ふざけんな!!ナメたカッコしやがって!!」


怯えたように殺せんせーに向かって行く不良達。それでも殺せんせーに敵うわけもなく、一瞬で地面に崩れ落ちた。


「ふざけるな?先生のセリフです。ハエが止まるようなスピードと汚い手で…うちの生徒に触れるなどふざけるんじゃない」


殺せんせーキレてる。初めて見たかも。男は恐怖と焦りから膝を震わせながらもゆっくりと立ち上がり、バタフライナイフを取り出す。


「……ケ、エリート共は先公まで特別製かよ。テメーも肩書で見下してんだろ?バカ高校と思ってナメやがって」

「エリートではありませんよ」


殺せんせーは男の言葉を否定して、先程の有希子の話を聞いていたかのような話をする。


「学校や肩書など関係ない。清流に棲もうがドブ川に棲もうが、前に泳げば魚は美しく育つのです」

「……!!」

「…さて、私の生徒達よ。彼等を手入れしてあげましょう。修学旅行の基礎知識を体に教えてあげるのです」


その言葉と共に、カルマ達は不良達の背後から鈍器とも言える分厚さのしおりを後頭部に叩き込んだ。気絶して倒れ込む不良達。それを見届けたカルマはしおりを投げ捨てて私に駆け寄って来た。


「因果……ッ!」


そして悲痛な面持ちのまま抱き締められた。皆がいるのに珍しい。…心配させちゃったかな。


「…何でこんなになるまで無茶すんのさ……!」

「大丈夫、ヘーキだって」

「どこが平気なんだよ!?」

「っ……ごめん」


一瞬カルマが涙目になっているように見えた。でも血で視界が半分だから見違いかもしれない。ぼんやりとそんな事を考えていると、カルマは私の両手を拘束していたガムテープを外してくれた。


「因果っ…あの時は助けてくれてありがとう。その後の挑発は私達のことを庇ってくれたの……?」


カエデが言った“あの時”とは多分首を絞められた時のこと。あの時は単純に頭にきたから蹴りを入れただけで、時間稼ぎとか庇うとか、それは後から思ったことだ。それに、


「…そんなんじゃないよ。昨日、新幹線であいつらが有希子の日程表を抜き取ったのに気付いてたんだぁ。私達に接触してくるのも予想出来てた…でもヘーキだと思って放って置いた」

「…因果、」

「私の考えが甘かった。結局皆を危険な目に遭わせちゃって…本ト、ごめん」


……はぁ、申し訳なくて皆の顔を直視出来ない。俯いていると、誰かがクスリと笑った。それが一気に広まる。


「……え?」

「もうっ、因果らしくないよ?」

「そうだよ、誰も因果を責めたりはしないよ」


皆笑ってた。気にしなくて良い、そう言っているみたいに。何だか少し、救われた気がした。


「素直に謝ることも、友達の為に立ち向かうことも、どちらも素晴らしいことです。…が、立ち向かうことと犠牲になることは違いますよ、因果さん」

「……はぁい」

「素直で宜しい。では、」


私の目の前に来た殺せんせーの触手が瞬時に動いた…ように見えた。…頭に違和感を感じる。


「額の傷はそんなに深くは無かったのですが出血が酷いので包帯を巻きました。左頬が赤くなっているので湿布を1枚。右頬と両手の甲なども擦り剥いていたのでそちらの手当ても。それから、カーディガンとブラウスに血が付着していたので染み抜きをしておきました」


…流石殺せんせー、マッハ20も伊達じゃない。


「…ありがとぉ、殺せんせー」

「本当なら大事を取って病院に行った方が……、」

「嫌(や)。皆と一緒に観光したい」

「…と、言うと思ってました。無理はしないで下さいね?」

「はーいっ」

「ではそろそろ此処から出ますかねえ」


立ち上がろうとすると、足元がふらついて倒れそうになったのをカルマが受け止めてくれた。


「っ…ありがとー、カルマぁ」

「全く…調子が戻るまで負ぶっても良いけど?」

「…んーっ、お願い」

「あっ、じゃあ私因果ちゃんの鞄持ちます!」

「ありがとー、愛美ぃ」


愛美に鞄を持ってもらい(というかずっと持っててくれた)、カルマの首に腕を回して負ぶってもらう。昔、私が足を捻って歩けなくなった時もカルマがこうやって負ぶってくれたっけ。あの時よりも大きな背中に、時の流れをしみじみ感じる。年寄り臭いけど。

そして気絶する不良達をその場に放ったまま皆で外に出た。何だか久々に外の空気を吸った気分。


「何かありましたか神崎さん?」

「え…?」

「ひどい災難に遭ったので混乱しててもおかしくないのに、何か逆に…迷いが吹っ切れた顔をしてます」

「…とくに何も。殺せんせー、ありがとうございました」

「いえいえ。ヌルフフフフ、それでは旅を続けますかねぇ」


私達の修学旅行はまだまだ続く。


[12/11/06]
title:水葬






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