「ここなら騒いでも誰も来ねえな。遊ぶんならギャラリーが多い方が良いだろ。今友達(ツレ)に召集かけてるからよ。ちゃーんと記念撮影の準備もな。楽しもうぜ、台無しをよ」


連れて来られた先はカラオケなんかではなく、元々ビリヤード場であったであろう廃墟。その間に私達を拘束していたガムテープは一旦外され、後ろに回した手首にだけもう一度巻かれた。これならさっきよりはまだ動けそうだ。でもやっぱりガムテープで拘束されてるのは辛い。縄なら緩まったり隠してるナイフで切れたりするけど粘着質のガムテープはそれが出来ない。…こうなったのも私の所為だ。皆が来るまで少しでも時間を稼がないと。

男共は仲間が来るまでの間カウンターで酒を飲み、煙草を吸って下品に笑っている。隣では例の写メの話をカエデと有希子がしており、有希子の話を聞きながら逃げ道が無いかを探す。…窓は無い、出入口は1つだけ。どうにか二人だけでも逃がす方法を……。


「……バカだよね。遊んだ結果得た肩書は「エンドのE組」。もう自分の居場所がわからないよ」

「俺等と同類(ナカマ)になりゃいーんだよ。俺等もよ、肩書とか死ね!って主義でさ」


“台無し”が偉そうに能弁垂れて、滑稽だ。


「俺等そういう教育(あそび)沢山してきたからよ、台無しの伝道師って呼んでくれよ」

「…さいってー」


私の横でポツリと呟いたカエデ。次の瞬間キレた傷の男がカエデをソファーに叩き付けて首を絞めた。……この野郎。


「何エリート気取りで見下してンだあァ!?おまえもすぐに同じレベルまで堕としてやンよ」

「……せよ、」

「あ?」

「その薄汚ねぇ手を離せって言ってんだよ……ッ!」


勢いだけで立ち上がって男の脇腹に一発蹴りを入れてやった。ブーツなんて履いてるから脚がふらついて体勢が崩れる。


「このアマぁッ!」

「っ……!」


左頬を思い切り殴られた。その拍子に地面に倒れる。更にもう一発殴られ、頬骨が軋む音がすぐ傍で聞こえた。…かなり痛いし口の中切った。殴られたそこが熱を帯びる。傷の男は地面に伏せる私の髪を鷲掴みにして目線を合わせる。


「…ったく、手間掛けさせやがってよ。少しは自分の立場が分かったか?」

「……さぁね。離せって言ってんだろ、ゲス野郎」


血を含んだ唾を男に吐いて嫌みったらしく嘲笑ってやった。これで時間が稼げるならそれで良い。次の瞬間、頭を地面に叩き付けられた。有希子の息を呑む音とカエデの悲痛な声を聞きながら、勢いをつけてもう一回。

…痛い痛い痛いっ!頭がぐらぐらして、がんがんして、視界までぶれてきた。考えるのが辛い、ちょっとヤバいかも。髪を鷲掴みにされてもう一度目線を合わせると、叩き付けられた時に額を切ったようでだらりと血が流れ落ちる。血で右目が開けられない。


「このクソアマ!下手に出りゃ調子に乗りやがってよォ!よっぽど一番に犯られてーみてえだな」

「おいリュウキ、程々にしとけよ。折角の上玉、今から傷物にしたら萎えンだろ」

「…チッ…そうだな」


リュウキと呼ばれた傷の男は私を地面に投げ飛ばした。


「いいか、今から俺等10人ちょいを夜まで相手してもらうがな。宿舎に戻ったら涼しい顔でこう言え、「楽しくカラオケしてただけです」ってな。そうすりゃだ〜れも傷つかねえ。東京に戻ったらまた皆で遊ぼうぜ、楽しい旅行の記念写真でも見ながら…なァ」

「…!」


カエデと有希子が私を呼ぶけど頭が痛くてそれ所じゃない。その時、扉の開く音が聞こえた。


「お、来た来た。うちの撮影スタッフがご到着だぜ」


開いた扉の方へゆっくりと視線を向けると、殴られて気絶した不良を掴んだカルマ達がそこにいた。…ギリギリセーフってとこかな。そんなことを考えながら皆の姿に安心する自分がいた。殺せんせーお手製の修学旅行のしおりと、GPSの受信機でこの場所を特定したらしい。


「…で、どーすんの?お兄さん等。こんだけの事して、況してや俺の妹を傷物にしてくれたんだ。あんた等の修学旅行はこの後全部入院だよ」

「……フン、中学生(チューボー)がイキがんな」


扉の向こうから聞こえてきた物音。男は呼んでいた仲間だと言い、ゆっくりと扉が開く。


「不良などいませんねぇ。先生が全員手入れしてしまったので」

「殺せんせー!!」


入って来たのは不良共を見事に手入れした殺せんせーだった。


[12/11/04]






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