「因果!王様ゲームしよ!」


通路側の座席の肘掛けに軽く腰を置いて渚君達の花札を見ていた時、陽菜乃に王様ゲームに誘われた。自ずと班で移動時間を過ごしていたから、他の皆ともっと話す機会になると思って二つ返事で返した。

腕を引かれながらやって来た座席には既に何人かが集まっていた。桃花に凛香と言ったいつもの二人に加え、メグがいることに少し驚き。男子は前原に菅谷に磯貝だ。あ、1班率高い。学級委員長が揃ってるし、そんなに過激なことはしないだろうと予想。


「じゃ、人数も揃ったことだし始めようか」

「「王様だーれだっ!」」


磯貝の言葉に、彼の持つ割り箸に皆が手をかけて掛け声と共に引き抜いた。


「あ、俺だ」


「王」と書かれた割り箸を見えるように出したのは菅谷だ。


「あー…じゃあ、2番と5番がハグ」

「あ、私が2番」

「私5番!」


2番が陽菜乃で5番が凛香で、同性だし二人は抵抗無く抱き合った。それから始まった王様ゲーム。どう言うわけか女子と女子、男子と男子、という組み合わせが多かった。定番のハグや見つめ合うと言った罰ゲームを男同士でやってるのを見るとなんだか可哀想に思えた。まあ桃花達は爆笑してたけど。


「「王様だーれだっ!」」

「…また俺か」


声を上げたのは菅谷だ。


「これって周りの奴らを巻き込んでもいいのか?」

「まあ、迷惑にならない程度なら良いんじゃない?」


菅谷の問いにメグが答え、それに賛同するように皆が軽く頷いた。まあそれぐらいの方が盛り上がるしね。


「……それじゃ、4番が烏間先生とポッキーゲームで」

「「ハァ!?」」

「止めとけって、今ビッチ先生の所為で虫の居どころが悪いぜ」

「てか4番って誰?」

「……私、」


その瞬間皆の視線が私に集まった。私の手元にある割り箸には確かに「4」と書かれている。


「…凛香ぁ、Pokil(ポッキル)ちょーだい」

「えっ、本気でやるつもり?」

「んーっ、王様の言葉は絶対、でしょー?」

「良いなあー因果」


ポッキーを片手に烏間先生の席に向かうと、私の後ろで陽菜乃が羨ましそうに言った。

烏間先生は腕を組んで不機嫌そうに一人で座っていた。原因は前原の言った通りイリーナの言動だ。そんな先生に近寄って声を掛ける。


「烏間センセー」

「…ん、因果か。どうかし……ッ!?」


最後まで言い切る前に烏間先生の口にポッキーを突っ込んで、間髪入れずにもう端から食べ始める。私の今の体勢は、先生の膝を跨ぐようにして向かい合っている。あまりに突然のことに先生は固まって呆気に取られている。その間にも私が食べ進め、残り3cmの所で折った。ポキッと折れた音が大きく聞こえる。


「ごちそーさま、センセー」


今の状況でこの言葉は合ってないような気がするけどそれだけ言って怒られる前にすぐさま皆の所に戻った。


「す、凄いな…赤羽」

「うぅ〜因果ばっかりズルい!」

「だってそーゆーゲームだし……」


その後は良い罰ゲームが思い付かず、自然と止めて皆は解散した。私もカエデ達の所に戻ると、こちらも花札を止めて雑談をしていた。


「ただいまぁ」

「あ、お帰り因果!」

「お帰りなさい因果。…ね、皆の飲み物買ってくるけど、何飲みたい?」

「あ、私も行きます」

「私も!」

「因果、俺はイチゴ煮オレね」

「…はーい。じゃー私も行くー」


カルマに横から言われ、仕方無く鞄から財布を取り出して有希子達に付いていく。すると隣の車両に渡った時、有希子の肩がそこにいた男と軽くぶつかった。


「あ、ごめんなさい」


…今、日程表抜き取った。そいつの顔をちらりと見れば左目の横に大きな傷のあるオールバックの男だった。多分高校生。周りの奴らを見る限り典型的な不良だろう。日程表を抜き取られたことに気付いていない有希子はカエデ達と楽しそうに話ながら通路を進んで行く。京都に着く前から騒ぎを起こすのも面倒だし、今はあいつらを泳がせておこうか。日程表が向こうにある限り私達に接触してくる筈。その時カルマと一緒に叩けばいいし。


「因果ちゃん、どうかしましたか?」

「…んーん、ちょっと考え事してただけー」

「因果、紙パックの自販機あるよ?」

「あ、本トだぁ。ラッキー」


カエデの指差した紙パックの自販機にはカルマのリクエストのイチゴ煮オレがあり、私の好きなコーヒー牛乳もあったからそれらを買った。ふと隣の自販機を見ると缶コーヒーが目に止まり、ブラックの缶コーヒーとミルクティー、そしてもう一つイチゴ煮オレを買った。


「そんなに買ってどうするの?」

「殺せんせー達に差し入れでもしようと思ってさぁー」


自分達の車両に戻る時も背後に粘りつくような視線を感じた。ただの気のせいや自意識過剰ではない。多少“場慣れ”しているとそんな視線には気付くようになる。

自分の座席に戻ってコーヒー牛乳を置き、カルマにイチゴ煮オレを渡す。それから買って来たもう一つのイチゴ煮オレを殺せんせーに、ミルクティーを未だにテンションの低いイリーナにあげた。そして缶コーヒーを持って烏間先生の所に行く。


「烏間センセー、はい。さっきの口直しにー」

「因果、さっきのは……」

「ただの子供の罰ゲームだからさぁ、大目に見てよセンセー」


缶コーヒーを手渡しながら自然な流れで烏間先生の隣に座る。


「…隣の車両に乗ってる奴らに目ぇ付けられたかもしれない」

「どういう意味だ?」

「そのまんまの意味だよ。ちょーっとメンドーなことになったかもしれないけど、カルマと一緒に叩き潰すからさぁ」

「…危険じゃないのか?」


烏間先生がそう言ってくるとは全く思ってなかったから驚き。喧嘩なんか止めろ、手を出すなって言われそうだったから。私のことを心配してくれる人なんてカルマ位だったし。


「…心配してくれてありがと、烏間センセー。でも、ヘーキだから」


烏間先生は何か言いたげだったけど、そのまま席を立って自分の席に戻った。


[12/10/26]
title:水葬






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