《奥田愛美の場合》 「ねぇ、奥田さん」 「は、はいっ!…なんでしょう……?」 突然後ろの席の因果に名前を呼ばれた奥田は、怯えたように肩を揺らして振り向いた。 「どーして怯えんのー?」 「い…いえ…。そんなことは……」 怯えられるのに馴れている因果だが、クラスメイトにそんな反応をされるのは案外きつい。だが実際は、どちらかと言えば因果は派手なタイプ分類される為、真逆のタイプである奥田は彼女のようなタイプと話すことにあまり馴れていないのだ。 そんなことなど知らずに、因果は言葉を続ける。 「奥田さんって、毒薬作れるんだよねえー?」 「は、はい…。失敗しちゃいましたけど……」 「ならさぁー、私と手を組まない?」 「えっ?」 予想外の言葉に奥田は思わず首を傾げた。 「私、よく殺せんせーに手作りのお菓子上げてんのー。だから、そのお菓子に毒を仕込めば暗殺出来るかなぁーと思ってさぁ」 「!」 「この方法どー?」 「っ…凄く良いと思います!ならお菓子の風味を落とさないもので……」 「あ、それいーかも」 机を挟み、暗殺方法で盛り上がる因果と奥田。その内容こそ物騒だが、端から見れば少女2人がにこやかに会話をする微笑ましい絵が広がる。 「奥田さんの名前ってさぁー、愛美、だよねぇ?名前で呼んで良(い)ー?」 「はい、勿論です!えっと、じゃあ私は…因果ちゃん…と、」 「んーっ、それでいーよ」 この日を境に2人は暗殺の方法についてよく話すようになった。 《茅野カエデの場合》 因果は茅野と一緒に化学の授業で使う道具を出していた。元々茅野がその日の当番だったのだが、廊下を通り掛かった因果が「手伝おうか?」と声をかけたのだ。1人では少し大変だった茅野は、彼女の厚意に甘え手を借りることにしたのだが。まだ停学が明けて日の浅い因果と話したことは数える程度。その為何処と無く気まずい雰囲気が漂う。 「あっ、ビーカーが足らない」 「ビーカー…?確かそこの棚の一番上にあったよーなぁ…」 「棚の上?」 茅野は背の高い棚の前に椅子を置き、それに乗って一番上の段に手を伸ばす。元々古い椅子なだけにガタガタと大袈裟に揺れる。ビーカーは奥の方に置かれていてどうにかして取ろうと奮闘し、漸く手に取ったその時、ふらつく椅子でバランスを崩してしまった。 「きゃあっ……!」 ビーカーを持ったまま宙に浮く茅野の身体。だが彼女が床に叩き付けられることはなかった。 「…っと、大丈夫ー?」 「あっ…ありがとう…赤羽さん」 因果が涼しい顔で茅野を受け止めたのだ。同性ではあるが、因果の男前な行動と整った顔を間近にして茅野は思わず顔を赤らめた。 「別に因果でいーよ。カルマと被るし」 「じゃ、じゃあ私もカエデって呼んで!」 「んー、分かったぁ」 [12/10/16] |