固くて少しカビ臭いベットにごろりと寝転がる。少しのことですぐに軋む保健室のベットは私の新しい昼寝場所となった。殺せんせーが明日のテストで50位以内に入れと言ったその日の午後、私は狭い保健室のベットの上にいる。理由は簡単、眠いから。欠伸を一つして目蓋を閉じた時、扉が開く音がした。 「ここに居たのか」 「…あ、烏間センセー」 ちらりと見れば、いつもの様に眉間に皺を寄せた烏間先生が近寄って来た。 「センセーも一緒に寝るー?」 「何を言ってるんだ」 呆れたような表情を浮かべて溜め息を吐く。 「授業に出ろ。明日のテストで50位以内に入らなければ……」 「分かってるよ、センセー。でも、眠いと頭に入んないだぁー」 「…だが、今ここで寝たら放課後まで起きないだろう」 「あはは……」 確かにその通りだ。 「大体、少し学校で寝過ぎだぞ。いつも何時間寝てるんだ?」 「……3時間、位」 「睡眠不足も好い所だな。口煩く言うつもりは無いが、遅くまでしなくてはいけない事でもあるのか?」 「……勉強、してるから」 そう言えば、烏間先生は何だか複雑そうな表情を浮かべた。ゆっくりと上半身を起こして窓の外に視線を向ける。 「私、カルマと違って物覚えが悪いからさぁー…人の倍以上勉強しないと理解出来ないんだよねえ」 「…だったら尚更、授業に出た方が良いだろう」 「毎日半年先の勉強してるから授業は簡単なのー。…こんな進学校来たくなかったけどカルマと一緒が良かったからさぁー。必死で勉強したんだよ?…誰も認めても、褒めてもくれなかったけど」 いくら双子でも、頭の良さも同じとは限らない。カルマは昔から物覚えが良くて、私は悪かった。だからカルマがここに進学するって聞いた時は本当に迷った。でもやっぱり一緒に居たいから必死で勉強した。…結局E組に落ちたけど。勉強は出来て当然で、それに加えて日頃の行いが悪いから認めてもらった事も、褒めてもらった事もない。自業自得なんだけどね。 その時、烏間先生が私の頭の上に手を乗せた。視線を先生に向ける。 「……センセー?」 「授業に出ないのは感心しない…が、これまでの努力は俺が認める」 「ッ!」 嬉しかった。少し雑に私の頭を撫でてくれる温かさと相俟(あいま)って泣きそうになる。鼻の奥がツンとした。ああ、ヤバい。思わず目の前の烏間先生に抱き付いた。 「っ…おい、因果」 「……ありがと、烏間センセー。楽になった気がする」 「……そうか、」 そう言うだけで、烏間先生は何も言わない。ホント、優しいな。そんなに優しいと本気で好きになっちゃうよ。 「…ねえ、センセー」 「なんだ」 「明日のテストで学年1位になったら、ご褒美ちょーだい?」 「は?…特定の生徒を贔屓しないようにしているんだ」 「私のモチベーション上げる為だと思ってさぁー。ね?お願いっ」 「……ハァ。内容による」 「えーっと…一緒にスイパラに行きたいなぁ」 多分却下されるだろうけど、試しに言ってみた。それに対し頭を抱えて本気で悩む烏間先生。 「……分かった。その代わりこれからは真面目に授業に出て、1日最低6時間は寝ること。これが条件だ」 「やったぁー!私絶対に1位を取るよー!」 まさか条件付きとはいえこんな下らない話を呑んでくれるなんて。更にぎゅっと抱き付いた。烏間先生をちょっとからかってみようと言う悪戯心が湧き出し、抱き付いたまま身体を後ろに勢い良く倒してみた。でもやっぱり大の大人はこんな事ではびくともしない……と思ってたのに。 「……ッ!」 不意を突いた私の行動に反応が遅れた烏間先生はそのまま体勢を崩し、私を押し倒すようにしてベットに両手を付いた。 「突然何をするんだ…!」 「…あははー」 でもこの体勢ってなんだか……。 「イケナイことしてるみたいだね、センセー」 「何を言って……」 「――…烏間先生、因果さんは寝てまし……」 「「…あ、」」 ガラリと開いた扉から入って来た殺せんせーと目が合った。端から見れば烏間先生が私を押し倒しているようにも見えるこの状況。すると次の瞬間殺せんせーは顔を真っ赤にした。 「な、何をしてるんですか!生徒と教師という関係でありながら…不純異性交遊禁止です!」 「これは事故だ!断じてそんな事はしていない!」 するとこの騒ぎを聞き付けたイリーナまでやって来た。更に話がややこしくなっていく。 ……私知ーらないっ。 [12/10/07] title:水葬 |