枕から顔を上げて教室を見渡せば既に誰も居らず、私一人が馬鹿みたいに残っていた。…化学の授業の後奥田さんが殺せんせーに手作りの毒を渡して…それから少しのつもりで寝たんだっけ。窓の外は陽が暮れ、鴉が鳴いている。この状況で分かることは、カルマは私を置いて帰ったという事だ。起こしてくれれば良かったのに。連絡が入ってないか携帯を確認しようとポケットに手を伸ばした時、肩に掛かっていたジャケットに気が付いた。多分スーツのジャケット、…スーツ?


「やっと起きたか」

「…烏間センセー、」


やっぱりこのジャケットは烏間先生のだった。わざわざ掛けてくれたのか…優しいな。でも起こしてくれても良かったのに。


「何度か声をかけたんだが、起きる気配が無かったから起こさずにいたぞ」


あ、ゴメンナサイ。


「時間ももう遅い、俺が自宅まで送ってやる」

「えっ?良いのー?」

「ああ、この時間に一人で帰らせるのも気が引けるからな」


更に「山道途中に停めた車で待ってる」と続けて、烏間先生は先に行ってしまった。あ、ジャケット返してないや。荷物をまとめ、枕をロッカーにしまってから下駄箱に向かう。


「おや、やっと起きましたか」

「あ、殺せんせー」

「丁度今起こしに行こうと思っていました。気を付けて帰って下さいね」

「はーいっ、でも大丈夫だよ。烏間センセーに送ってもらうんだぁー」

「にゅやッ!烏間先生に…ですか……」

「んーっ、じゃあまた明日ねせんせぇー」

「…はい、また明日」


殺せんせー、なんか落ち込んでたな。…まあいっか。下駄箱でブーツに履き替えて山道を下ると、すぐにエンジンのかかった車を見付けた。運転席には烏間先生。駆け寄って助手席に乗り込む。


「烏間センセー、お願いしまーすっ」

「ああ、自宅は何地区だ?」


烏間先生に分かりやすく大通りを通った行き方を説明すると、「分かった」とだけ言って車を発進させた。こんなことが陽菜乃に知られたら大変な事になりそうだし何も言わないでおこう。車の中、烏間先生の匂いがするなー、なんて。ちらりと横を見れば、ハンドルを握る先生の横顔は格好良かった。


「烏間センセーって彼女とかいるのー?」

「…君らの年頃はその類いの話が好きだな」

「んーっ、やっぱり女の子はカッコいーセンセーには聞きたくなるんだよねー」

「格好良いかは知らんが…、今はいない。まずは“奴”を殺すことが先決だ」


まあ来年には殺せんせーに地球も爆られちゃう訳だし、彼女なんて言ってる場合じゃないよね。


「確か君は……、」

「“君”じゃなくて因果って呼んでよセンセー。赤羽は二人いてややこしいからさぁー」

「…因果、停学明けすぐ“奴”にダメージを与えた訳だが、その際使用していたライフル銃は自分のか?」

「そー、好きなんだぁー。色々集めてさ、自分なりに改造してんの」

「…そうか、だが扱いには気を付けろ。怪我をしては元も子もないからな」

「はーい、心配してくれてありがとセンセー。あ、もうここでいーです」


車は少し進んでハザードを出して路肩に停まる。外に降りると同時にゴミと皺が付かないように軽く裏返して折ったジャケットを座席に置く。


「烏間センセ、ありがとうございましたぁ。それからジャケットも。それじゃまた明日ぁー」

「また明日、学校で」


そう言って扉を閉めた後、窓越しに手を振ってからすぐそこの自宅へと歩き出した。


[12/08/30]
14/10/07:修正






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