≪not因果≫ 数日後、中間テストの結果が出た。テストを前にして授業を受けず、以前にも増して猛勉強したA組に、E組の大半はトップ圏内から弾き出されていた。大方の予想は出来ていたが、突き付けられた現実に皆一様に肩を落として帰路につく。 「拍子抜けだったなァ」 「やっぱり前回のはマグレだったようだね〜」 「棒倒しで潰すまでもなかったな」 「「ぐっ……」」 帰宅途中、後ろから突っ掛かってきた五英傑に渚達は思わず言葉に詰まる。 「言葉も出ないねェ。まぁ、当然か」 「この学校では成績が全て。下の者は上に対して発言権は無いからね」 「へーえ。じゃ、あんた等は俺等に何も言えないわけね」 今度は五英傑の表情が強張った。テストの成績が全てと言うのなら、自分達よりも上の順位、同点一位と二位が現れたらそんな反応もするだろう。 「まーどうせ、うちの担任は「1位じゃないからダメですねぇ」とかぬかすだろーけど」 「じゃー、私は1位だから何か奢ってもらおーかなー」 「…カルマ君、因果さん」 「………」 一学期中間のクラストップの再現。だが、前回とは少し違う。 「気付いてないの?今回本気でやったの俺等だけだよ。他のE組(みんな)はおまえ等の為に手加減してた。おまえ等も毎回敗けてちゃ立場が無いだろうからって」 「A組が敗けっぱなしはダサいもんねー」 「なにィ〜」 「でも、次はE組(みんな)も容赦しない」 三学期になれば、内部進学する本校舎組と高校受験のE組では授業内容が変更される。A組とE組が同条件のテストを受けるのは二学期期末が最後となるのだ。 「2か月後の二学期期末。そこで全ての決着をつけようよ」 「…チ…上等だ」 「行こーぜ〜」 「帰ろー?あ、私クレープ食べたーい」 「はいはい」 渚はカルマのさりげないフォローに気付き、少し驚いた。これまでとは違う、敗者を気遣う言葉。敗北を経験したからこそ、彼は一足先に弱者に寄り添う事を覚えた。失敗も挫折も成長の源。今回の事は、またE組を強くするだろう。 *** 翌日。全員で職員室に行き、パソコンに向かう烏間に今回の事を謝罪した。 「今回の事は暗殺にも勉強にも大きなロスになったと思うが、そこから何か学べたか?」 烏間の問に対し、少し考えてから渚が口を開いた。 「強くなるのは自分の為だと思ってました。殺す力を身につけるのは名誉とお金のため、学力を身につけるのは成績のため。でも、身につけたその力は、他人のためにも使えるんだって思い出しました。殺す力を身につければ、地球を救える。学力を身につければ…誰かを助けられる」 「もう下手な使い方しないっス、多分」 「気をつけるよ、いろいろ」 その答えを聞いた教師三人は、何処か満足そうな表情を浮かべた。特に殺せんせーは、生徒達の成長に口許がいつも以上に綻んでいる。 「考えはよくわかった。だが、今の君等では高度訓練は再開できんな」 「!?」 「なにせこの有様だ」 そう言って立ち上がり、烏間が取り出したのはボロボロになり、股まで破れたジャージだった。持ち主は岡島のようで。ハードになっていく訓練と暗殺に、普通のジャージでは耐えられる筈もなく。第一それでは生徒達の安全を守れない。 「防衛省(くに)からのプレゼントだ。今日を堺に君達は…心も体もまたひとつ強くなる」 プレゼント、それは新しい体育着だった。 「先に言っておくぞ。それより強い体育着は地球上に存在しない」 [17/09/23] |