「みんなー!園長先生はおケガしちゃってしばらくお仕事できないの。かわりにね、このお兄ちゃん達が何でもしてくれるって!」

「「はーい!!」」


ばたばたと勢いよく走ってくる子供達。まるで新しい玩具で遊ぶかのように、主に男子達にちょっかいを出している。


「まったく…何で私ら無関係の生徒まで連帯責任かねぇ」

「…面目ねぇ。あとすっげぇ噛みつかれてる」


寺坂なんて引くほど子供に噛み付かれている。子供怖い。どうやって相手をしようか。子供の世話なんてしたことないしな……。


「で、何やってくれるわけおたくら?大挙して押しかけてくれちゃって、減った酸素分の仕事くらいはできるんでしょーねェ」


なかなかとんがった子もいらっしゃる。格好付けて話す少年達の話によれば、彼女はさくらちゃんと言うらしい。


「まずは、働く根性あんのかどうか」

「え…ちょ」

「試してやろーじゃないのえェ?」


さくらちゃんは菷を振り上げて向かって来たが、その勢いで床に穴が開き落ちてしまった。その拍子に足を打ったのか痛そうに悶えている。


「修繕はしないんですか?その…この建物老朽化がかなり…」

「お金が無いのよ」


職員の方によれば、園長は格安で児童を預かっているようで、収入が少ないらしい。そして一番働いていたという園長は、今は病院のベッドの上だ。


「29人で2週間か。…なんか色々できんじゃね?」

「できるできる」

「よし皆。手分けしてあの人の代役(かわり)を務めよう。まずは作戦会議だ」

「あのじーさんの骨の倍額仕事してやる!!」


***


「……」

「えーっと」

「……」

「お名前はぁ?」

「……」


ここまで反応が無いのは流石につらい。目の前にいるのは返事をしてくれない女の子。高学年の子達に勉強を教えることになり、私はこの子の担当になったのだが、反応が薄いため勉強以前に意思疏通が難しい。


「んーと……茜、ちゃん?」


彼女が持つノートから少し見えた名前。返事は無かったものの頷いてくれた。


「私は赤羽因果、よろしくねぇ」


屈んで視線を合わせて自己紹介するけど、茜ちゃんは頷くだけ。そのままテーブルに向かって座り、ノートを開いてくれた。勉強する意思はあるらしい。とりあえず算数、理科、社会の簡単な問題を解いてもらう。


「算数がちょっと苦手みたいだしぃ、まずは算数からやっていこっかー」

「……」

「んーと、じゃあまずはこの問題からねぇ。ここは……」


頷くか首を横に振るか、反応はそれしかないけれど、私の下手な説明をちゃんと聞いてくれているようだ。でもやっぱり教えるって難しい。


「渚はーやーく!!あたしの事東大連れてってくれんじゃなかったの?」

「う、ご、ごめん」


さくらちゃんに教えている渚君も苦戦しているようだ。


「ね…ねぇ、さくらちゃんはどうして学校行かなくなったの?」

「あ?イジメだよイジメ!典型的な程度のひくいやつ!」

「っ……!」

「…えっ、あ、茜ちゃん!?」


まるでさくらちゃんの話に反応したかのように、茜ちゃんは急に立ち上がって部屋を飛び出してしまった。よく分からないけど、このまま放っておく訳にはいかない。


「……気にするなって言ってんのに、」


茜ちゃんを追って部屋を出ようとした時、さくらちゃんの呟きが聞こえたが今更立ち止まれず。そのまま年季の入った廊下を進む。


「茜ちゃんなら外に出て行ったみたいよ」

「ありがとーございます……!」


すれ違い様に職員の方が茜ちゃんの行方を教えてくれた。良いタイミングだし、疑問に思っていたことを聞いてみることにした。


「あ、あの……茜ちゃん、話してくれないんですよねぇ。何か理由が……?」

「その事なんだけど、茜ちゃん、話せないのよ」

「え?」


茜ちゃんは学校で虐めを受け、このわかばパークに来たらしい。その時に虐めを庇ったさくらちゃんが次の標的になり、結果さくらちゃんも此処に来たと言うのだ。そして段々茜ちゃんは誰とも口を聞かなくなった。

……まるで、何処かの誰かさんみたい。


「私達は話してくれるのをずっと待っているんだけど……。流石にこのままじゃ茜ちゃんが辛いだろうし、」

「……私が、話してみます」


職員の方にお礼を言ってから、また歩き始めた。外だとしても敷地内からは出ないだろうし、すぐに見つかる筈だ。


[16/04/02]






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