前方には寺坂グループとふらふらで今にも倒れそうなイトナがいる。イトナの触手は、対先生ネットから作ったバンダナで気休め程度に抑え込んでいる。

自分から言い出したんだから、寺坂にも何か策があると思いたいけど……。


「…さておめーら。どーすっべこれから」


……ああ、やっぱり。


「考えてねーのかよ何にも!!」

「うるせー!!4人もいりゃ何か考えあんだろーが!!」

「ホンッット無計画だなテメーは!!」


村松と同意見。寺坂はいつもこうだ。とりあえずはと一同は綺羅々の提案により村松のラーメン屋へ。

しばらくして出て来た一同は、今度は吉田の自宅へ。吉田の家はバイク屋で、広い敷地内をバイクが走る。運転するのは吉田、後ろにはイトナが乗っている。けれど急なターンでイトナは茂みに飛ばされてしまった。


「………。何にも計画ないみたいだね」

「…うん。ただ遊んでるだけな気が」

「ま、あいつら基本バカだから仕方ないよ」

「そーそ、バカだからねぇ」


綺羅々は頭が良いから、なんて愛美が言うけれど。何処からともなく取り出した小説をイトナの前に積み上げて勧めている。頭は良いけどその分小難しい。


「もーちょっとねーのかよ、簡単にアガるやつ!!だってこいつ頭悪そう…」


小刻みに震え始めたイトナ。……触手の発作だ。触手がバンダナを破って表に出てきた。吉田達はすぐに逃げたが、寺坂だけはその場に残った。


「おうイトナ、俺も考えてたよ。あんなタコ今日にでも殺してーってな。でもな、テメーにゃ今すぐ奴を殺すなんて無理なんだよ。無理のあるビジョンなんざ捨てちまいな。楽になるぜ」

「うるさい」


正面から襲い掛かる触手を、寺坂は逃げることなく受け止めた。イトナの触手を受け止めたのはこれで二回目だ。しかも弱っているから捕まえやすいと言うが、やはり吐きそうな位は痛いらしい。


「なぁイトナ。一度や二度負けた位でグレてんじゃねぇ。いつか勝てりゃあいーじゃねーかよ」


寺坂はそう言って、イトナの頭を拳で殴った。


「タコ殺すにしたってな、今殺れなくていい。100回失敗したっていい。3月までにたった1回殺せりゃ…そんだけで俺等の勝ちよ。親の工場なんざそんとき賞金で買い戻しゃ済むだろーが。そしたら親も戻ってくらァ」

「…耐えられない。次の勝利のビジョンが出来るまで…俺は何をしてすごせばいい」

「はァ?今日みてーにバカやって過ごすんだよ。そのためにE組(おれら)がいるんだろーが」


バカだから言える適当なその言葉は、案外心地好かったりもする訳で。


「俺は……焦ってたのか」

「…おう、だと思うぜ」

「目から執着の色が消えましたね、イトナ君」


殺せんせー曰く、今ならイトナの触手を取り除けるらしい。最後に決めるのは本人だ。


「殺しに来てくれますね?明日から」

「…勝手にしろ。この触手(ちから)も兄弟設定も、もう飽きた」


イトナは小さく笑った。


***


よく晴れた朝。続々とみんなが登校するこの時間に、新たな仲間の姿があった。あのバンダナは健在だ。


「おはようございます、イトナ君。気分はどうですか?」

「最悪だ。力を失ったんだから。でも、弱くなった気はしない。最後は殺すぞ…殺せんせー」


ようやく普通に登校したイトナは、後ろから見えるこのクラスの風景に馴染んでいた。ちなみに寺坂グループに入ったようだ。空腹を訴えているから、菓子パンでもあげようか。


「イトナぁ」

「?」

「ん、食べるー?」

「!いいのか?」


菓子パンを2つ差し出せば、イトナは驚いたように目を丸くした。


「いーよ、別に。前にいっぱい貰ったからねぇ」

「前……?ああ、あの時か」


イトナの初登校時に沢山のお菓子を貰った。だからパンはそのお礼だ。


「ま、それでも足りないだろうから、昼は寺坂の弁当貰えばいーと思うよー」

「おい!なんで俺のなんだ!」

「だってイトナが可哀想でしょー?」

「そうだぞ、可哀想だろ。だから弁当寄こせ」

「テメーは自分で可哀想とか言ってんじゃねーよ」

「じゃあやっぱり村松ん家のラーメンかぁ」

「クソまずいが仕方ないな」


イトナのクソまずい発言に村松が反論し始めた。……うん、いい感じに馴染んできてる。よかったよかった。


「因果」

「!…はーい」


廊下から烏間先生に呼ばれた。一体何事かと思いながらすぐ廊下に出て、先生と向き合う。


「おはよ、センセー」

「おはよう。突然ですまないが、君には通っているガンショップがあったと記憶しているんだが」

「ん、んー…あるけどー…」


烏間先生からそんな話をされるとは思ってもみなかった。思わず身体が強ばる。


「そんなに構えなくてもいい。俺は別に、それについて咎めるつもりは無い」

「え?ならどーして」

「その店の店主に会わせてはくれないだろうか」

「おっちゃんに……?」


真っ直ぐ向けられた視線。烏間先生がおっちゃんに会いたい理由はよく分からないけど、多分何か考えがあるのだろう。


「…分かったぁ、いつ行くー?」

「そうだな……」


そんな時、一時間目開始を告げるチャイムが烏間先生の言葉を遮った。


「…この話はまた後でするとしよう」

「はーい」

「因果」

「んー?」


教室に戻ろうと扉に手を伸ばした時、先生に呼ばれてそちらに顔を向けた。


「今日も頑張れよ」

「!…うん!」


さっきよりも柔らかい表情で言われた言葉に、嬉しくなってついはにかんだ。


[15/11/04]






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