「遅刻ですねぇ、逮捕する」 遅刻した優月に、悪徳警官のような格好をした殺せんせーが手錠をかけた。あまりの唐突振りに木村が質問すると、二学期から暗殺訓練に加わったフリーランニングを使って遊ぼうと言い出した。 「それはケイドロ!!裏山を全て使った3D鬼ごっこ!!」 生徒が泥棒役となって裏山を逃げ回り、殺せんせーと烏間先生が警官役としてそれを追い掛ける。 「1時間目内に皆さん全員を逮捕(タッチ)できなかった場合、先生が烏間先生のサイフで全員分のケーキを買ってきます」 「おい!!」 「そのかわり、全員捕まったら宿題2倍!!」 最初に追うのは烏間先生だけで、殺せんせーが動き出すのはラスト一分から。それまでは牢屋スペースで待機らしい。 「…なるほど。それならなんとかなるか…」 「よっし、やってみるか皆!」 「「おーう!!」」 全員体操着に着替えて裏山へ。殆どが修学旅行の班で固まって、協力しながら奥へと進む。校舎から離れないとすぐに烏間先生が来ちゃうだろうな。 「カルマぁ、ポケットに手ぇ突っ込んでたら危ないよぉー」 「はいはい。因果も足元気を付けなよ。滑りやすいから」 「んー」 愛美はちょっと苦戦してるけど、皆伸び伸びと進んでいく。すると全員のスマホが一斉に鳴った。某テレビ番組と同じSEと共に、律が烏間先生に捕まった生徒の名前をそれっぽくコールする。 「ビッチ先生ぇ、アウトぉー」 イリーナまで捕まったのか……。というか参加してたんだ。 「やばい、どんどん殺られてく。殺戮の裏山だ」 「逮捕じゃなかったっけ」 烏間先生の機動力はやっぱり凄いな……。見付かるのは時間の問題かも。 杉野は牢屋にいる泥棒を解放しようと、踵を返して校庭へと向かった。仕方がないからその後を追う。けれど牢屋の前には悪徳警官の姿が。 「誰があの音速タコの目を盗んでタッチできるよ。できる位ならとっくに殺してるって」 どうすることも出来ずに牢屋の様子を覗っていると、岡島が殺せんせーに何かを渡した。すると無言で出て行くよう触手で合図した。……収賄か。渚君と杉野が解放に行き、牢屋はもぬけの殻となった。 その後も様々なパターンで泥棒の取り逃がしは続き、とうとう烏間先生がキレた。 「あのバカタコはどこにいる出てこい!!」 「ヒマだからって長野県まで信州そば食べに行きましたよ」 こんな警察、何処かで見た事ある。 「E組(うち)の警察はチームワークゼロだ」 「やっぱ合わないね〜あの2人は」 「今の内に早く行こー」 信州そばを啜る殺せんせーに文句を言い続ける烏間先生。その間にまた裏山へと繰り出すと、連絡が回ってきた。それはこのケイドロに勝つ為の作戦で。囮役には私の名前も入っており、同じ担当であるメグ達の元に向かう。 「あー、いたいたぁ」 「烏間先生いたか?」 「んーん、ここまで来る間は烏間先生の気配はなかったよー」 前原から問われ、答える。囮役である私達の役割は、烏間先生をプールからなるべく遠ざけること。その為には一秒でも長く先生から逃げないと。 「…来た!」 数々の泥棒を逮捕してきた烏間先生が遂にやってきた。ただのお遊びなのに、やけに緊張して胸が高鳴る。 「左前方の崖は危ないから立ち入るな。そこ以外で勝負だ」 「「はい!!」」 力一杯地面を蹴って一気に飛び出す。授業で習った全てを最大限に活かして逃げる。驚くほど心臓が速くてうるさい。賞金をかけてエリアを逃げ続ける某バラエティーの、追われるタレントはこんな感覚なのかな、なんて。 雑念が頭を過った時、頭に軽く優しい感覚が。 「因果、逮捕(タッチ)だ」 頭には烏間先生の手。ちょっとの隙も見逃さないようだ。逮捕は悔しいけど、一緒に逃げたメグ達の中では一番最後に逮捕されたようだから、まあ良しとしよう。 「あーあ、残ね……ッ!」 右足を一歩後ろに引いたら、身体が宙に浮いた。足場の悪い岩の上であることを忘れてた。やばい、 「!」 「っ…大丈夫か?」 ……烏間先生に腕を引かれ、地面に叩き付けられることは無かった。その代わり私の身体は先生の腕の中。好きな先生の匂いと汗の匂いが鼻を掠めた。追い掛けられた時とはまた別の意味で心臓が痛い程高鳴る。 「……ん、大丈夫(だいじょーぶ)。ありがと、センセー」 「逮捕されたからと言って気を抜くな。足場の悪い所では特にな」 「…はぁい。肝に銘(めー)じます」 「良し。…さて、ずいぶん逃げたな。大したもんだ。だがもうすぐラスト1分。奴が動けばこのケイドロ、君等の負けだな」 「…へ、へへへ。俺等の勝ちっスよ、烏間先生」 そう、ここまで来たら私達の勝ちだ。だって殺せんせーだけじゃ、残り一分プールに潜水しているカルマ達には触れないんだから。 「タイムアップ!!全員逮捕ならず、泥棒側の勝ち!!」 律のアナウンスによってこのケイドロは生徒の勝利で幕を閉じた。 [15/04/04] |