二学期の始業式、ざわつく体育館。私の制服じゃ目立つから、前に行くカルマと別れて一番最後尾に並ぶ。少し前の方では五英傑が突っ掛かって来ている。 「出五かぁ…」 「休み明けから縁起悪りーな」 いつも以上に含んだような笑みを浮かべた五英傑はあっという間に去って行った。そして始まった始業式は欠伸が出る程つまらない内容で進んでいく。 「…さて、式の終わりにみなさんにお知らせがあります。今日から…3年A組にひとり仲間が加わります。昨日まで彼は、E組にいました」 「「!!?」」 全体がざわめく中ステージ上に現れたのは、竹林だった。 *** 「なんなんだよあいつ!!百億のチャンス捨ててまで抜けるとか信じらんねー!!」 戻って来た教室は竹林の話題だけで。前原は苛つきながら黒板を殴った。木村とひなたもそれに続く。突然のことに皆が動揺して、竹林に批難が集中する。 「みんな熱くなってるねぇ」 「当然でしょ。いきなりE組抜けるなんてさ。それにあの演説は無いわ」 「んー…でもさぁ、毎年のことだしー…これが理事長のやり口だからねぇ」 確か去年の今頃もひとりA組に復帰してきたと思う。まさか竹林が理事長の誘いに乗るとは思わなかったけど。 「とにかく、ああまで言われちゃ黙ってらんねー!!放課後一言言いに行くぞ!!」 理事長のところに行った殺せんせーは、多分反論出来ずに帰って来るだろうな。 *** 「おい竹林!」 「………」 「説明してもらおうか。何で一言の相談も無いんだ竹林?」 放課後、E組全員で竹林の元へ。愛美は何か事情があるのだろうと必死に問い掛ける。 「賞金百億。殺りようによっちゃもっと上乗せされるらしいよ。分け前いらないんだ、竹林。無欲だね〜」 長い沈黙のあと、ようやく竹林が口を開いた。 「…せいぜい十億円」 「「?」」 竹林曰く、自分一人での暗殺は不可能。集団で暗殺が成功したとしても、担える役割から考えて分け前はせいぜい十億だと言うのだ。そして実家は病院を経営、十億は働いて稼げる額らしい。 「僕にとっては、地球の終わりより百億よりも、家族に認められる方が大事なんだ。裏切りも恩知らずもわかってる。君達の暗殺が上手くいく事を祈ってるよ」 そう言って帰ろうとする竹林を渚君が追い掛けようとしたら、有希子がそれを止めた。 「親の鎖って…すごく痛い場所に巻きついてきて離れないの。だから…無理に引っ張るのはやめてあげて」 確か有希子も竹林と似たような境遇なんだっけ。だからこそ痛みが分かるのだろう。うちの親は自由奔放だから私やカルマにはよく分からない世界だ。 ……でもここまで一緒にやって来たんだから、竹林には戻って来て欲しい。そう思ってるのは私だけじゃない筈。 *** 「おはようございます」 次の日、教室にやって来た殺せんせーは何故か真っ黒だった。アフリカに行って日焼けしたらしい。 「これで先生は完全に忍者!!人ごみで行動しても目立ちません」 「「恐ろしく目立つわ!!」」 アフリカに行った理由は、竹林のアフターケアだと殺せんせーは言う。 「自分の意志で出ていった彼を引き止める事はできません。ですが、新しい環境に彼がなじめているかどうか、先生にはしばし見守る義務がある」 それは殺せんせーの仕事だと続けるが、皆も竹林の様子を見に行くと言い出した。A組に行こうとも、一緒に過ごした仲間であることに変わりない。 「うんうん。殺意が結ぶ絆ですねぇ」 六時間目の授業を少し早めに切り上げて、皆で本校舎へ。若干違和感があるものの、カモフラージュを使いながらA組の様子を伺う。 「結構うまくやってるみたいじゃない」 「むしろ普段より愛想良くね?」 「ケ、だから放っとけって言ったんだ、あんなメガネ」 「けど結局来てんじゃん寺坂ぁ。竹林が心配なんでしょー?」 「心配じゃねぇよ!」 寺坂って本ト不器用だなぁ。でもまあ何だかんだ言っても様子を見に来てる時点で良いやつなんだけど。映画版のジャイアンみたい。 そのあと竹林が理事長室に入って行き、カーテンで中が見えないため今日はここで解散となった。 *** 今日は学校の創立記念日のため、また体育館で集会が行われる。始業式と同じように最後尾で話を聞く。欠伸を噛み殺していると、またステージに竹林が出て来た。けれどこの前とは違う。何だか殺気を感じる。 「僕の…やりたい事を聞いて下さい。僕のいたE組は…弱い人達の集まりです。学力という強さが無かったために、本校舎の皆さんから差別待遇を受けています。でも僕は、そんなE組が、メイド喫茶の次ぐらいに居心地良いです」 「「!!!?」」 竹林が語るのは、始業式の時のようなものではなく、E組を肯定するものだった。 「でも、もうしばらく僕は弱者でいい。弱い事に耐え、弱い事を楽しみながら、強い者の首を狙う生活に戻ります」 ステージ脇から浅野が姿を現した。多分今の言葉を撤回するようにでも言っているのだろう。けれど竹林はそれを無視、取り出したのは理事長室からくすねて来たというガラスの盾だ。 「…理事長は、本当に強い人です。全ての行動が合理的だ」 そして竹林は木製のナイフを大きく振り被り、ためらい無く盾を叩き割った。マイクが音を拾い、ガラスの割れる音が体育館に響き渡る。 「浅野君の言うには、過去これと同じ事をした生徒がいたとか。前例から合理的に考えれば、E組行きですね、僕も」 そう言い切った竹林の表情は、晴れ晴れとしていた。 なんだ、結構格好いいトコあるじゃん。 *** 体育の授業の前に、烏間先生から二学期の授業内容について説明が入る。 「…二学期からは、新しい要素を暗殺に組みこむ。そのひとつが火薬だ」 「か、火薬!?」 どうやら火薬を使うには、誰か一人が火薬の安全な取扱いを覚えなければいけないそうで。夏休みのしおりとまではいかずとも、分厚いテキストを烏間先生が取り出した。当たり前ながら、皆乗り気ではなく名乗りを上げない。…いや、一人いた。 「勉強の役に立たない知識ですが、まぁこれもどこかで役に立つかもね」 「暗記できるか?竹林君」 「ええ、2期OPの替え歌にすればすぐですよ」 [15/03/28] |