二人っきりの部屋。ソファーに腰掛ける二人の微妙な距離。付き合ってから結構経っているし、キス位出来たら…なんて淡い期待を抱いて初めてタクミの部屋にやって来た訳だが。想像とは裏腹にアヤメの身体は緊張で強張っている。


「…アヤメ、」

「タクミ?」


タクミは片手をソファーについてアヤメとの距離を縮めた。更に彼女の身体に腕を回してぐっと引き寄せる。


「えっ…!ちょ、タクミ……!?」

「…はぁ、ムードを大切にしないか?」

「む、ムードってそんな……!」

「それじゃあ少し黙っていてくれ」


タクミはそう言うと彼女の頬に手を添え、そのまま有無を言わさずに唇を重ねた。突然のことに驚き、固まってしまったアヤメ。その間にもタクミは何度も角度を変えて彼女の唇を堪能する。そしてタクミが離れると、アヤメはふるふると震えながら涙目になって唐突に喚(わめ)き始めた。


「タクミのバカ!」

「!?…いきなり人を罵るなんてどういうつもりだ!」

「随分とキスがお上手ですね!初めて同士だと思ってたのに!」


少女漫画のような、初めて同士で初々しく甘酸っぱいキスを思い描いていたアヤメにとって想像とは違ったそれ。


「やっぱり何だかんだ言ってもイタリア人だね!私なんかより可愛い子といっぱいキスしてきたんでしょ!」

「な、何を言い出すんだ急に!」


あまりにもキスが上手かった為驚いたのもあるが、タクミは経験豊富なのだと勝手に決め付けて嫉妬しているだけなのだ。しかし突然そんなことを言われタクミも困惑している。


「私初めてだったのに!」

「君がどうしてそんなことを言い出したかは知らないがオレだって初めてだ!」

「そりゃあ初めて……え?」


ぽかん、とタクミを見詰める。すると先程の余裕は何処へやら。タクミは気まずそうに視線を逸らした。


「だ、だってあんなに上手かったのに……」

「そ…それは…アヤメに格好悪い所は見せたくないから色々勉強したり、シミュレーションしてだな……」


絶対に知られたくなかった自分の努力を打ち明け、顔も耳も真っ赤に染め上げたタクミ。そしてアヤメは彼の言葉が嘘ではないことを知った。


「…っ、あははっ…!」

「な、何がおかしい!」

「ごめんごめんっ、良かった、私の知ってるタクミだ」


安心したように笑うアヤメに釣られてタクミも表情を和らげる。


「ね、仕切り直してもう一回して?」

「!…ああ、次はもう泣くなよ」


そう言って頬に添えられた手に、アヤメは目蓋を閉じた。



[14/10/23]
アンケートより。
title:微光
   

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