大変なことになってしまった。後悔先に立たず。背後の温もりに頭の中で警鐘が鳴り響く。

私はただウイスキーボンボンを作ってタクミに試食してもらっただけなのに。少しキツめの洋酒で作ったのがいけなかったのか、はたまた彼が下戸なだけなのか。いくら考えたところで現状を打破することは出来ない。


「アヤメ、愛してる」


微量のアルコールで完全に酔ってしまったタクミに背後から抱き竦められ、耳元で囁かれる愛の言葉。酔うとイタリア人の血が騒ぐのか、時折イタリア語を織り交ぜながら、普段の照れ屋で初心なタクミからは想像もつかない程甘ったるい台詞が並ぶ。


「Ti amo da impazzire.(狂おしいほど愛してるんだ)」

「っ愛してくれてるのは分かってるから!」


タクミと付き合い始めてからイタリア語を必死で勉強して、たどたどしいけれど日常会話を出来るまでになった。だからイタリア語は何とか理解出来る。出来るが故に恥ずかしくてしょうがない。


「本当か?…ならどうしてイタリアに来てくれなかった?」

「だ、だって前から夏休みは実家に帰るって親と約束してたし……」


親に紹介するから一緒にイタリアに来てくれと言われたけれど、まだその時期ではないと思い私は帰省することを選んだ。そしたらこの様だ。完全に根に持っている。


「君の居ない生活は耐えられなかった。もう料理のことすら考えられない位にオレの心はアヤメに侵食されているんだ」

「考えてよ!秋の選抜控えてるのに!」


私は惜しくも選ばれなかった。悔しいけれど、ほっとした自分がいたのも確かだ。その時の感情を思い出していると、唐突に首筋を甘噛みされた。


「ひっ……!ちょ、タクミ……!」

「オレは本気で言ってるのに…どうしたら君は分かってくれる?…オレはこんなにも、愛しているのに……」


縋るような声色で言葉尻が掠れていく。ぎゅっと身体に回った腕に力が籠もる。……ああ、タクミは不安なんだ。照れ屋で初だから愛の言葉なんて滅多になくて、それでも言葉なんかなくても愛されていることは実感出来ていた。だから私もあまり言葉にすることはなかった。けどそれがタクミにとって不安材料になっていたのかもしれない。


「…タクミ、」


彼の腕の中で強引に振り向き、透き通るような青い瞳と視線を合わせた。


「Io L'amo.(愛してる)」

「っ…アヤメ……!」

「だからさ、そんな顔しないでよ」


想像以上に不安げな表情を浮かべていたタクミの頬をすっと撫でると擽ったそうに目を細めた。


「アヤメ、好きだ…愛してる」

「うん、私も」



[14/03/13]
アンケコメより。イタリア人の本領発揮、とあったので。全くイタリア人らしくならなかったので反省したい。
title:レイラの初恋
   

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