「――…て、…助けて……」 「ッ……!」 耳元で囁くような声に、コユリは飛び起きた。 「っ…コユリ?どうしたんだよ、いきなり」 「聞こえたの!」 「聞こえたって…なにが」 「DWで苦しむ皆の声が……!」 コユリは急いで身支度を始め、貰ったワンピースに身を包んだ。更に机に置いたままだった鞄の中を整理して必要な物だけを詰め込み、救急箱の中身も補充する。彼女の素早い行動に、こんなに動けるのかとヒョウルモンは驚いていた。 鞄と共に置いていたネックレスを首にかけると、更に助けを求める声が聞こえてきた。 「っ……早く行かなきゃ……!」 「行くって…どこに行くんだよ……!」 「分かんない!」 バタバタと階段を降りると、こちらも寝起きで午後出勤の母と鉢合わせした。 「お母さん……?!」 「どうしたの?そんなに慌てて、寝坊?」 「う、うん…ちょっとね……」 「やっぱりそのワンピース、似合ってるわね」 「あ、ありがとう……」 コユリはその時、救急箱に湿布を入れ忘れている事に気が付き、鞄をテーブルに置いてすぐに湿布を用意する。 そんな彼女の様子を、テーブルに移動したヒョウルモンは眺めていた。すると、朝食をテーブルに乗せていた母が小声で言った。 「――…コユリを守ってね、狼さん」 「ッ……?!」 ヒョウルモンが驚きと困惑の表情で母を見上げると、初めてあった時のような無邪気な笑みを見せた。 「…行ってきます!」 「行ってらっしゃーい」 鞄とヒョウルモンを素早く手に取ったコユリは、蹌踉(よろ)けながらもブーツを履き、自宅を飛び出した。 「――……いいなー、DW。これも子供の特権かぁ」 ――…まさか俺が見えてるなんてな……。絶対に護り通してやるさ。 「……で、どこに向かって走ってるんだ?」 「っ段々声が大きくなってるの……!だからそれを辿れば……!」 「DWに行けるかも知れない、って事か」 「うん!」 コユリは住宅街を駆け抜けた。誤った道に進めば声は小さくなる。いつしかコユリは、その声がネックレスから聞こえてきている事に気が付いた。 そして辿り着いた場所は、ヒョウルモンと初めて出逢った、街を一望出来る丘だった。 「っ…ハァ…ハァ……」 「大丈夫か?」 「な、なんとか……」 この丘に着いた途端、声が止んだ。その事から、ここに何かがあるとコユリは考えたのだ。 息を整えながら、何かないかと歩き出す。 「……っコユリ!」 「どうし……ッ!」 ヒョウルモンが見付けたもの。それは、空間が裂け、データの狭間が見えた、まさにDWへの入り口だった。コユリはすぐさまそれに駆け寄る。 「…ここから、DWに……」 「コユリ、本当に良いのか?」 「……私、最初の頃は皆といるだけで良かった。戦いなんてしたくなかった。…でも、それは違うってやっと気付いたの」 「…コユリ……」 彼女の脳裏を過(よ)ぎるのは、DWで出逢った友達、仲間、各ゾーンの住民達。ヒョウルモンが言わなくても、コユリの心は決まっていた。 「大切なものを守る為に戦う、そう皆が教えてくれた。だから……戦う覚悟はある」 「良く言ったコユリ。それでこそ俺の…いや俺達のジェネラルだ」 「ヒョウルモンっ……。それじゃあ、行くよ」 「ああ、俺達でDWを救うぞ」 「うん、絶対に……!」 そしてコユリは前を見据え、世界を救う為の第一歩を踏み出した。 そして少女は舞い戻る ― 第一期完結 ― ------(11/08/30)------ これで第一期終了です。や、やっと書き終わりました……。ここ最近は寝ずに書いたので、なんとか今月中に書き上げる事が出来ました´ω` ここまで読んで頂き、本当に有難うございます!次回からは第二期になりますので、続けて読んで頂けると泣いて喜びます(笑) |