波打際ではコユリとネネ、アカリが水の掛け合いをして楽しそうにしている。一方の男子チームは浜辺でビーチバレーの真っ最中。それらをキリハとヒョウルモンはパラソルの下で眺めていた。



「……おい、坊主」

「……なんだ」

「コユリばっかり見てんじゃねぇよ」

「ッ見ていない!」

「ハッ…どうだかな」



睨み合い、紅と蒼の瞳の間で火花が散る。今二人を止める者は誰もいない。



「……坊主、正直に言えよ」

「何がだ」

「コユリの事、本気で好きか?」

「ッ……!」

「お前、フォレストゾーンで嬢ちゃんを助けに行ったよな。本当は嬢ちゃんの方が好きなんじゃねぇの?」



ヒョウルモンはこの際だ、とキリハに本音をぶつけた。

キリハはフォレストゾーンでネネの後を追い、彼女を助けようとしてダークナイトモンに操られた。普通好きでもなければそこまでしない、ヒョウルモンはそう考えたのだ。



「――…似ているように思えた」

「コユリと嬢ちゃんがか?」

「……コユリの、放っておいたら消えてしまいそうな儚さがネネと被った。だから俺はネネを助けに……」

「消えてしまいそうに見えたのなら、どうしてコユリじゃなく嬢ちゃんの手を取ろうとしたんだよ……!」



同じ様にコユリが好きだからこそ、ヒョウルモンは本気でキリハにぶつかった。



「レイクゾーンで俺はコユリを傷付けてしまった。今更コユリの手を掴んだところで俺なんかに……」

「もう振り向いてもらえる自信がないから似てる嬢ちゃんに乗り換えようとしたか?バカかテメェ……!確かにテメェはコユリを傷付けた!だがな、現にコユリはテメェを許して一緒にいるじゃねぇかよ!」



キリハのハッキリとしない態度に怒りを覚えたヒョウルモンが声を荒げたが、他のメンバーは遊びに夢中で誰も気付いていない。



「テメェも男だったら、惚れた女の手は一度掴んだら何があっても離すな……!絶対に後悔する日がやって来る…!それにな、振り向いてもらうんじゃない、振り向かせるんだ!」

「っ……お前は、」

「コユリさんっ!」

「コユリ!」



アカリとネネの声に、キリハとヒョウルモンが視線を海へと移した。すると、沖で溺れているコユリの姿が目に飛び込んで来た。



「ッコユリ……!」



その瞬間、キリハは考えるよりも先に身体が動き、海へと飛び込んだ。ヒョウルモンは何があったのかネネ達に説明を求めた。



「タイキ君達の使っていたボールが海に落ちて、コユリが取りに行くって言ったの」

「泳いでボールを取ったのは良かったんだけど、潮に流されたみたいで……」

「更に、脚を痙(つ)ったか何かで溺れた訳か……」

「ゼンジロウ、俺達もコユリを助けに行くぞ!」

「当たり前だ!」

「ちょっと待て小僧共」



キリハの後に続こうとしたタイキとゼンジロウをヒョウルモンが止めた。それに誰もが驚いたが、タイキはヒョウルモンなりの考えがあるのだと思い、一旦行くのを止めた。


――…坊主が己を見つめ直す良いチャンスだ……。


――…「コユリの事、本気で好きか?」「本当は嬢ちゃんの方が好きなんじゃねぇの?」……ッ俺は……。


ヒョウルモンに言われた言葉がキリハの脳内に木霊(こだま)する。

水中で、意識を失い沈んでいくコユリを見付けたキリハは、彼女の腕を掴んで引き寄せ、躊躇(ためら)い無く唇を重ねて己の空気を送り込んだ。

そしてそのまましっかりと彼女を抱きしめて海面へと上がり、横抱きにして浜へと戻った。幸(さいわ)いコユリは飲み込んでしまった海水を吐き出し、意識を取り戻した。



「……キリ、ハ…くん…?」

「ああ、大丈夫か?」

「…うん……。ごめんね、また迷惑…かけちゃった……」

「いや……お前が無事で良かった」



そんな中、タイキ達が二人に駆け寄り、キリハは何事もなかったかの様にコユリを下ろしてヒョウルモンがいるパラソルへと戻った。



「おい、ヒョウルモン」

「なんだ、もう戻って来たのか」

「お前、俺がコユリよりネネの方が好きなんじゃないか、そう言ったな」

「ああ、確かに言ったな」

「俺が愛しているのはコユリただ一人だ」



先程とは比べものにならない程の瞳の強さに、ヒョウルモンは口角を上げ、立ち上がってキリハと視線を合わせた。



「ガキが……高が恋愛ごっこで愛してるだの簡単に言うんじゃねぇよ」

「ごっこなんかじゃない……!俺は本気だ…!」

「ならその本気とやら、どうやって示す」

「……もう少しで全てのコードクラウンの所有者が決まるだろう。となるとバグラ軍との決戦は避けて通れない」

「…だろうな」

「だから俺は、その決戦の前にコユリに想いを伝える」



キリハは、コユリに告白するとヒョウルモンに宣言した。



「それは負けて死んでも悔いの残らないようにか?」

「フン…俺達ブルーフレアが負ける筈ないだろう。雑念を断ち切り、戦いに集中する為だ」

「その間、コユリは動揺して戦えない可能性だってあるぞ」

「コユリは俺が守る。……それに、お前達もいるだろう?」

「……ハッ、言うようになったじゃねぇか、坊主」



初めてと言える程二人の思いは一致し、無意識の内に口角が上がる。



「――…キリハくん!」

「どうした?」



コユリがキリハの元へ駆け寄って来た。



「さっき、ちゃんとお礼が言えなかったから……。助けてくれてありがとう」

「別に気にするな」

「……」

「どうかしたか?」

「キリハくん、雰囲気変わったね」

「っ…そう…か?」

「うんっ」

「コユリー、一緒にビーチバレーしようぜ!」

「あっ、うん!…それじゃ、行ってくるね!」



コユリはキリハとヒョウルモンに笑顔でそう言い、砂に足を取られながらもタイキ達の元へと駆けて行った。



「……なあ、坊主」

「……なんだ」

「コユリの身体ばっかり見てんじゃねぇよ」

「ッ見ていない!」





そして少年は決意した





------(11/08/28)------
書いている内に少女マンガっぽくなってしまった……(´`;)定番過ぎると言いますか……orz

ヒョウルモンもコユリが大好きですが、デジモンと人間では越えられない壁がある事を分かっているので、最終的には昔の自分にそっくりなキリハの背中を押した、と言う感じです(・ω・`)






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