例によってキリハとヒョウルモンは睨み合っていた。と言うよりは、ヒョウルモンが勝手に睨んでいるだけだが。

理由は単純明解、コユリとキリハが呆気なく和解した事にある。



「――…テメェ、また性懲りもなくコユリを誑(たぶら)かしやがって……!」

「誑かした覚えは無い」



キリハは平然と言い、それにキレたヒョウルモンが飛び掛かった、が。



「咎人の拘束着(ピオレガータ)!」

「ッ…ラティスモン!何して……!」

「もう、私は別に誑かされてないよ?」



地面に縛り付けられているヒョウルモンに、コユリは屈んだ姿勢でそう言うものの、ヒョウルモンの気は治まらない。



「リーツァモン、彼奴(あやつ)の頭を冷やしてやれ」

「ああ、分かった」



それを見兼ねたハクシンモンに従って、リーツァモンは凍て付く吐息を軽くヒョウルモンにかけた。



「ッ……!」

「少しは冷静になった?」

「……少しはな、」

「全く、止めるこっちの身にもなってよ」

「あ、ああ……」



拘束を解かれたヒョウルモンは立ち上がり、紅の鋭い瞳でキリハを睨んだ。



「……仕方ねぇから許してやる」

「お前にしては潔(いさぎよ)いな」

「ただし、一発殴らせろ!」

「ヒョウルモン!何言ってるの!」

「……分かった」

「キリハくん?!」



キリハがあっさり承諾した事に、全員が驚愕の表情を見せた。

コユリが笑顔で許していても、キリハの胸には罪の意識が残っていた。そしてヒョウルモンが投げ付けてくる言葉も、ある意味正論だった。だからこそ、ヒョウルモンの気が済むのならばと、キリハは頭(かぶり)を振ったのだ。

殴ると言っても、ヒョウルモンはシキアモンやラティスモンの様に人型ではないため、どうやって殴ってくるのかとキリハは考えていた。



「歯ァ食いし縛れよ……蛇の追撃(アスピデテール)!」

「……ッ!!」



ヒョウルモンは尾の蛇に力を込めたその技で、キリハの頬を殴った。

岩石をも簡単に砕く技だったが、ヒョウルモンなりに力を抜いていた為、キリハは後ろに倒れただけで被害は無かった。



「ッキリハくん!大丈夫?」

「……っああ、平気だ」



コユリはすぐさまキリハに駆け寄り、平気そうな姿に胸を撫で下ろした。しかし、赤くなっている頬を見て、コユリは閃いた。



「リーツァモン!」

「どうした、ジェネラル」

「ほんの少しだけ、氷を作ってほしいんだけど……」

「?…分かった」



リーツァモンは近くを流れていた小川の表面だけを凍らせ、更にそれをシキアモンが脇差(わきざし)で小さく切った。

コユリは鞄から取り出した袋にその氷と水を入れ、即席の氷嚢を作ってキリハに渡した。



「はい、これで暫(しばら)く冷やしててね」

「すまない。……コユリがいてくれて助かった」

「へ?あ、ありがとう」



端(はた)から見れば、まるで夫婦の様だ、とピュアグロウとブルーフレアの主戦力達は思った。ただ一人、ヒョウルモンは気に入らなかったようだが。



「……なんでさっき力抜いたの?」

「……本気でやったらコユリが悲しむだろ」

「ふーん……。ヒョウルモンも結構気を使うようになったね」

「俺もバカじゃないからな」



シキアモンとヒョウルモンが小声で話していたが、遠くから聞こえてきた爆発音に遮られてしまった。



「っ……バグラ軍…?!」

「そのようだな。…迎え撃つぞ……!」

「うんっ……!」





元に戻った日常





------(11/08/26)------
次回はかなり時間が飛んでディスクゾーンの決戦後の話になります(・ω・) 本編を書くと多分詰まるので……←

……にしてもいつキリハに告白させよう。まさか第三期まで続くとは思わなかったからなー(´`;)





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