野外美術館でクロスハートと合流したピュアグロウの間に緊張が走った。

なぜなら、つい先程まで話に上がっていたルーチェモンが、クロスハートと共にいたのだ。

しかし、ルーチェモンの言動を見る限りバグラ軍とは到底思えず、コユリは別人ではないかと思ったが、他のメンバーは誰一人そう思ってはいなかった。

小声でやり取りをしながら、コユリ達はタイキ達を助ける為に警察署まで来た。しかし、



「今取り調べ中っピ」



の一点張りで面会すらさせてもらえず、署の前で立ち往生してしまった。時間だけが流れ、辺りはすっかり暗くなってしまい、焦りは募るばかり。



「コユリさんっ、どうすれば……!」

「ここは女神のお力でどうにか……!」

「そ、そう言われても……」

「……警備が薄いのう」

「ハクシンモン?」



ぽつりと呟いたハクシンモンに視線を送ると、珍しく千里眼が開眼しており、眼球がギョロリと動いた。



「"赤"は取調室におる。署の裏に回り込み、壁を二枚程壊せば助け出せるの」

「やった!これでタイキ達を助けられるわ!」

「バリスタモンなら簡単に壁を壊せるよな」

「カンタンニ、デキル」

「じゃあ、私達が見張ってる間に、アカリちゃんとゼンジロウくんはタイキくん達を!」

「分かりました!」

「任せて下さい!」



ハクシンモンはアカリ達と共にタイキ達の救出に向かい、外ではコユリとヒョウルモン、シキアモンが見張りをする。



「ルーチェモンはここから逃げた方がいい」

「ど、どうしてですか?僕もタイキさん達を……」

「もし見付かって罪に問われたら、一緒にいた貴方に迷惑がかかる。だから……!」

「……っ分かりました。その変わり、無茶だけはしないで下さい」



コユリの言葉で、ルーチェモンはその場から立ち去った。その後ろ姿にヒョウルモンは口角が少し上がった。



「……名演技だな、コユリ」

「演技じゃないよ。あのルーチェモンはバグラ軍とは全く関わりが無いかもしれないからね」

「どっちにしろ、ルーチェモンがいたんじゃまともに話が出来ないし。帰したのは正解だと思うよ」



辺りを警戒しながら会話を続けていると、署の裏から救出されたタイキ達が走って来た。



「コユリ!」

「タイキくん!無事で良かった!」

「積もる話は後だ、今は逃げるぞ……!」



脱走したのがバレたのか、警報が鳴り響き、すぐにガーゴモン達に追い付かれてしまった。



「ロックダマシー!!」

「ヘヴィスピーカー!」

「雷火雨(サンダーレイン)!」

「白裂(ハクレツ)!」



警察とクロスハート・ピュアグロウの、一進一退の攻防戦が署の前で続く。



「ホーリーエスパーダ!」



騒ぎを嗅ぎ付けてやって来たスラッシュエンジェモンの技により、クロスハートは地に伏せた。しかし、コユリはシキアモンに手を引かれ、難を逃れた。



「ッ皆!!」

「っ…コユリ、逃げ…ろ……」

「でもッ……!」



タイキの真っ直ぐな眼差しに、コユリは一瞬戸惑い、そして小さく頷いた。



「絶対に助けに来るから!」

「逃がさんぞ!」



コユリはヒョウルモンの背に乗りながら、追い掛けてくるガーゴモン達を振り切る為に林の中へと飛び込んだ。それから更に奥へと進み、いつしか追っ手の声は聞こえなくなっていた。



「……撒いたようだな」

「…そうだ……ね……?」



そうだね、彼女の言葉は音に掻き消された。

黒い一筋の光がコユリの身体を貫き、彼女は力無く膝から崩れ落ちた。



「ッコユリ!!」

「っ……!?」

「心配する事はない。ただ気絶しているだけだよ」

「……誰だッ?!」



林の奥から聞こえてきた声に、ヒョウルモンは臨戦体勢に入り、シキアモンは気絶したままのコユリの上半身を起こした。



「なに、ただの貴族さ」

「……ダークナイトモン……!!」



突如現れた黒騎士……ダークナイトモンの前に、Xローダーから出て来たハクシンモンが立ち塞がった。



「これはこれは、誰かと思えばハクシンモンじゃないか。昔と随分姿が違う様だ」

「白々しいのう…。貴様等がこうしたんじゃろうに」

「ああ、そうだったかな」

「若僧が……!」



ハクシンモンは、高笑うダークナイトモンを憎悪の混ざった瞳で睨みつけ、軋む程歯を食いしばった。

コユリに外傷は無く、呼吸も安定している事を確認したシキアモンは、彼女をラティスモンに託し、白鴉(ハクア)を構えた。



「それで、なんでコユリを襲った訳?」

「――…コユリが私達の計画の邪魔をしかねないからよ」

「嬢ちゃん……お前もか」



ダークナイトモンの背後からゆっくりと姿を現したネネに、ヒョウルモンは苦虫を噛み潰したような表情を見せた。



「そうよ。彼女には、私がやったと伝えればいい」

「それを言ったら、アンタに対する信頼を失う事になるけど?」

「……別に構わないわ。信頼など、レイクゾーンの時に失ったもの」

「レイクゾーン……?あの時、嬢ちゃんは坊主と手を組んだ筈だよな?」

「ええ。でもそれは私がキリハ君を脅したからよ」

「……なんだと?」



ネネは、全ての罪を自分独りで背負うと決めていたのだ。元はと言えば自分で蒔いた種。今からでも遅くはない。己の友情を壊してでも、コユリとキリハの仲を戻そうと考えていた。



「私と手を組まなければ、彼女を……コユリを殺すと言ったわ」

「ッお前、コユリの友達じゃなかったのか!」

「……今は、敵よ」



シキアモンは、コユリが気絶していて本当に良かったと胸を撫で下ろした。本人がこの会話を聞いたなら、キリハの時以上にショックを受ける事は目に見えているからだ。



「キリハ君は何も悪くないわ。悪いのは私。……怨むのなら、私を怨みなさい」

「目的は達成された。ネネ、そろそろ行くとしよう」

「そうね……」



それだけを残して暗闇へと姿を消したトワイライトを、ヒョウルモン達は追わなかった。それは、コユリの安全を第一に考えた結果だ。



「チッ……!」

「……ラティスモン、コユリの容態はどうじゃ?」

「呼吸は安定していますし、本当に気絶しているだけの様です。ですが、いつ目覚めるかまでは……」

「そうか……」

「確か病院ってあったよね?ベッド位は貸して貰えるんじゃない?」

「そうだな。ガーゴモン達に見付からない様に行くぞ」



一旦コユリを病院に連れて行くと言う事で纏まり、一同は暗闇の中に消えて行った。





領域侵蝕





------(11/07/31)------
スラッシュエンジェモンとの戦闘の時、コユリの出番が無いと思ったのでこうしました← ヒロインが空気なのも虚しいので……(・ω・`) 空気と言えば、リーツァモンが全く出ていませんが、忘れた訳ではないですよ!出番が無いだけで……(爆)

ネネの心情がどうも上手く書けないので、時系列に箇条書で纏めてみました。

ダークナイトモンがコユリを狙っている→助けなきゃ→自分から引き離す→でもキリハと組む事にした→コユリをネタにキリハを脅す→結果的に自分から引き離す事に成功したが罪悪感が募る→コユリとキリハの仲だけでも戻したい→キリハの汚名返上→その変わり自分独りが嫌われ役をする

こんな感じです……。もっと精進しなければ……!





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -