時が止まったような、そんな気がした。 我に返ったキリハは、すぐにコユリから離れた。 ――…一体、俺は何をしているんだ……。 後悔の念ばかりが募る。 こんな事をした所で、白雪姫の様にコユリが目覚める訳ではないのに。何だか馬鹿らしくなり、口許に嘲笑が浮かぶ。 別れを告げずに目の前から消えた方がどれだけ楽か。そう思い、部屋から出ようとドアノブに手を掛けた。 「……っ…き…りは、くん……?」 「ッ……!」 その弱々しい声に驚き、振り返ると、コユリがゆっくりと上半身を起こしていた。彼女が目を覚ました事に、キリハは驚いた。 「……っごめんね…、キリハくん。もう、大丈夫だから……」 コユリは起きてすぐ、眉尻を下げて謝り出した。彼女が起きたという事は、別れを告げなければならない。 「すぐ他のゾーンに……」 「その必要は無い」 「えっ?」 突然の言葉に、コユリはまだ理解出来ずにいた。 「力の無い奴と一緒にいる価値は無い」 「ッ……」 「俺はネネと手を組む事にした。お前はタイキとでも組めばいい」 冷たいその言葉に、コユリは声が出せなかった。初めてだったのだ。キリハからこんなにも冷たい言葉を投げ付けられるのは。 「……な、んで……?」 「俺は弱者に興味は無い。これからは敵同士だ」 コユリは肩を震わせ、俯いた。一方のキリハも胸が締め付けられる思いだった。思ってもない事を口任せに言う事が、辛かった。それが好意を抱いている相手となれば尚更の事で。 暫くして、コユリが顔を上げた。 「そう、だよね……。私、弱いし、キリハくんの足引っ張ってばっかりで……」 「……」 「弱い癖にキリハくんに優しくしてもらえたから、少し勘違いしてたのかも知れない……」 「……コユリ、」 「今までごめんね、もうキリハくんの邪魔はしないから……。ネネちゃんに宜しく言ってて」 その声は、震えていた。涙を必死に堪えて、無理に笑おうとするコユリに、キリハは何も言えずに無言で部屋から立ち去った。 扉が締まった瞬間、堪えていた涙が一気に溢れだし、頬を伝う。零れ落ちる大粒の雫は、シーツに染みを作っていく。コユリは、声を押し殺して泣いた。 その涙は、友達だと思っていた人物に突然突き放された事によるモノなのか。それとも、また別のモノなのか。それは彼女自身にも分からなかった。 そしてキリハも、扉に寄り掛かり、唇を噛み締めていた。 コユリが友達だと思っているネネに戦いを迫られたら、どれだけ傷付くか。それならいっその事、自分が突き放した方がよっぽどマシだと考えた。 そしてその結果が、この現実だ。 向こうから聞こえてくる大人数の足音に、キリハは急いでメイルバードラモンに乗り、先程のゾーンへと戻った。 その直後、コユリの部屋にクロスハートとピュアグロウが慌ただしく入って来た。ハクシンモンとシキアモンの話に、急いで来たのだ。 「コユリ!」 「っタイキ、くん……」 「良かった、目が覚め……っコユリ?!」 コユリは、タイキの胸に飛び込んだ。いきなりの事に驚いたタイキだったが、彼女が泣いている事にすぐ気がついた。 「キリハと、何かあったのか?」 「……私…キリハくんに、嫌われちゃった」 紅の瞳に涙を溜めながら必死で笑おうとするコユリに、タイキは言葉が出なかった。 その後全員(主にヒョウルモン)に「何があった」と問い質され、コユリは先程あった事を全て話した。 「あの坊主……次会ったら絶対噛み殺してやる………!」 「ヒョウルモン!私が弱いから悪いの、キリハくんは何も……」 「お前がそう言っても、腹の虫が治まらねぇんだよ」 暫くして泣き止んだコユリが、苛立つヒョウルモンを宥(なだ)める。 「しかし、女神を泣かせるなんて最低なヤツだな!」 「ホントに許せない!タイキもそう思うでしょ!」 「……俺は、キリハの本心じゃないと思うんだ」 タイキの言葉に、コユリは驚いた様な表情を見せた。 「えっ……?」 「だってそうだろ?もしキリハが本当にそう思っていたなら、今までコユリと一緒にいたとは考えられない」 その言葉にアカリとゼンジロウは、言われてみればそうだと納得した様子。 「キリハは何か……そうしなければいけない理由があったんだと思う」 「……そう、なのかな…」 「きっとそうさ!それにアイツ、コユリの事を大切にしてる様に見えたから、理由も無しに突然突き放したりはしない筈だ!」 ――…あの言葉は嘘だったの? コユリはタイキの言葉に、心の中でキリハに問い掛けた。 すれ違う思い ------(11/05/05)------ 何かこう……緊張感?のある場面が全然書けない……orz 誰か私に文才を下さい!← このゾーンだけで5話も引っ張ってる……。第1期は40話に収めようと思ってたのに……(´Д`;) |