砂埃が舞うこのゾーンにキリハとネネはいた。ネネはタイキとではなく、キリハと手を組む事に決めたのだ。しかしキリハは一向に首を縦に振らない。 「俺にはコユリがいる。君と手を組むつもりはない」 「キリハ君がそう言うのなら私にも考えがあるわよ」 「フン、俺を脅す気か?」 「そうね……。キリハ君、私と手を組んでくれないのならコユリを殺すわ」 「ッ……!」 ネネの言葉にキリハは少なからず動揺した。「天野ネネ」という人間を理解出来ていないキリハにとって、その言葉が本気なのか分からなかった。 「私、本気だから」 「……何が望みだ」 「コユリと別れて私と手を組んでくれるだけでいいの」 キリハは顔を顰(しか)める。彼の選択肢は一つしかなかった。 「……っ分かった、」 「物分かりが良くて助かったわ。手を組んでくれたお礼に良い事を教えてあげる」 「良い事、だと……?」 「コユリがバグラ軍のリーツァモンに殺されかけたみたいなの」 「そんな事嘘に……」 「本当よ。一命は取り留めたみたいだけど、まだ意識が戻ってないわ」 何故コユリがリーツァモンに殺されかけたのか、キリハには見当もつかなかった。ただ早く彼女の顔が見たくなり、踵(きびす)を返してネネに背を向ける。 「コユリに別れを告げて戻って来て」 「……ッああ、」 奥から絞り出す様な声で返事をしたキリハは、メイルバードラモンをリロードしてレイクゾーンへと急いだ。 「ネネ、本当にこれで良かったの?」 「……あの子に…コユリにとって、これが最善の策なのよ」 まるで自分に言い聞かせる様に、ネネはスパロウモンにそう言い返した。 一方のレイクゾーンでは、クロスハートとピュアグロウがコユリの目覚めを待っていた。 「もうすぐで丸一日経つな」 窓の外を見ながらヒョウルモンがぽつりと呟いた。ラティスモンとキュートモンの力によってコユリの傷口は塞がった。後は彼女が目覚めるのを待つだけなのだが、あれから丸一日眠りについている。それを心配して、クロスハートもコユリが目覚めるまでレイクゾーンに留まる事になったのだ。 「このまま女神が目覚めなかったら……」 「ちょっと!縁起でも無い事言わないでよ!」 「す、スマン……」 クロスハートとピュアグロウは大広間にいた。あの部屋に全員入るのは窮屈な為、交替制を取ったのだ。今の時間はシキアモンとハクシンモンがコユリの傍についている。 「……ねえ、ハクシンモン」 「なんじゃ」 「コユリ、死んでるみたいだね」 「馬鹿な事を申すな。生きておるじゃろ」 「そうだけどさ……」 シキアモンは、静かに眠り続けるコユリの頭を優しく撫でた。 その時扉が開き、二人が視線をそちらに移すと、珍しく肩で息をしているキリハが入って来た。 「帰って来るの遅すぎだよ」 「コユリは?」 「もう丸一日眠っておる」 「そうか……」 「……シキアモン、妾(わらわ)達は少し席を外すとしよう」 「分かった」 シキアモンは部屋を出る際、キリハに「コユリに手を出さないでよ」と耳打ちしてからハクシンモンと共に大広間へと戻って行った。 静寂が部屋を包みこむ。キリハはなるべく足音を立てずに、コユリへと近付いた。一日振りに見たコユリの顔にキリハは一息ついた。 「………、」 ――…まるで白雪姫だな。 キリハは柄にもなく思ってしまった。目の前で静かに眠っているコユリが、毒林檎によって深い眠りについた白雪姫と重なったのだ。 白雪姫は王子のキスで目覚めるが、現実はそんな都合よくいく筈が無い。だが、今のキリハはそんな幻想にすら縋(すが)る思いだった。 声が聞きたい。あの笑顔を自分に向けてほしい。そんな思いがキリハの胸の中で渦を巻く。 キリハがベッドに手をつくとギシリと鳴った。その状態から更に屈み、コユリとの距離を縮めていく。 そして、彼女の柔らかそうな唇に己のそれを重ね合わせた。 白雪姫は目覚めるのか ------(11/05/04)------ 寝込みのキスって少女漫画染みてますよね← ネネの殺す発言は本心じゃないですよ!裏に自称貴族(笑)がいての発言です |