バグラ軍を殲滅した後バアルモンを逃してしまったキリハは、メイルバードラモンの背に乗って空を飛んでいた。


「メイルバードラモン、他のゾーンに移るぞ」

「コユリはいいのか?」

「この間にコードクラウンを取って戻って来た方が効率が良い」

「そうか」


キリハはこの時、これからコユリの身に降り掛かる出来事全て、知る由も無かった。彼を乗せたメイルバードラモンは新たなゾーンへと移動した。

一方バステア城では、アイスデビモン強化吸収体に一先ず勝利したタイキ率いるクロスハートが一息ついて勝利を噛み締めていた。


「やるな、坊主」

「ヒョウルモン!コユリは大丈夫なのか?」

「ああ、ラティスモンとハクシンモンがついてる。問題無いだろ」


ヒョウルモンとタイキが話していたその時、地を揺るがす咆哮がレイクゾーン一帯に響き渡った。鼓膜を振るわせるそれに、咄嗟に耳を塞ぐ。


「な、なんなのよコレ!」

「この声は……。おい、ドルルモン!」

「……ああ、間違いない。ヤツだ」


ヒョウルモンの予感はドルルモンの頷きによって核心へと変わった。二人の共通点は元バグラ軍。だからこそ、二人にはあの雄叫びが一体誰のものなのか容易に想像がついたのだ。


「誰なんだよ、そのヤツってのはよぉ」

「自称未来のデジモンキングがこんな事も分からないなんてな」

「なんだと!」

「リーツァモン」

「リーツァモン?」


ぽつりと呟く様に言ったシキアモンの言葉に、シャウトモンやタイキ達は首を傾げてシキアモンを見た。


「バグラ軍の、兵器だよ」

「ヤツは……おっと、お出ましだ!」


ヒョウルモンはそう言いながら九時の方向に構えて戦闘体制に入った。それに全員が同じ方角に視線を移して武器を構える。すると忽(たちま)ち辺り一面が凍り始めた。更に雪まで降り始め、薄着のタイキ達からすれば寒い以外の何物でもない。タイキ達に影が落ち、その瞬間翼を羽撃(はばた)かせながらリーツァモンが目の前に降り立った。傷だらけの濃青の装甲が鈍く光る。深緑の瞳に生気は無く、殺気が肌に突き刺さるように痛い。


「っこいつが……リーツァモン……?」

「こ、怖いっキュー……」

「サッキガ、スゴイ」


リーツァモンの殺気と圧倒的な存在感に怯(ひる)むクロスハート。リーツァモンの視線は、今回の標的であるタイキへと向いた。


「赤のジェネラル……死んでもらうぞ!」


リーツァモンは長い尾を振って、氷塊をタイキ達目掛けて叩きつけた。その衝撃で地面に皹が入り破片が飛び散る。全員間一髪でそれを避けるも、その攻撃は止まる事を知らない。


「どうすんだよタイキ!」

「皆!デジクロスだ!」


クロスハートはデジクロスして戦おうとするが、デジクロスする隙を与えて貰えず逃げ惑うばかり。


「蛇雷(レーペレボルト)!」

「白裂(ハクレツ)!」


その攻撃は装甲に微かな傷をつける程度だった。各(おのおの)が攻撃を続けるが、然ほど効果は無いようで。その時、リーツァモンの視線がタイキから別の場所へと移った。今まで標的にしていたタイキには目もくれず、一直線にそこへと向かう。「一体何が起きた」と、その場にいた全員が振り返った。


「「ッ……?!」」


誰もが息を呑み目を疑った。部屋で寝ていた筈のコユリが、何故この場にいるのかと。リーツァモンが新たな標的にしたのは、無防備で今にも倒れそうなコユリだった。自分が狙われているにも関わらず、コユリはそこに立っていた。気力だけで立っているような彼女は恰好の獲物と言えよう。


「……やっと、みつ…けた、」


彼女のその呟きを誰も知らない。

そこから先はスローモーションのように、時がゆっくりと進んでいるようだった。リーツァモンがコユリの目の前まで来た時、ハクシンモンとラティスモンがこの場に駆け付けた。だが次の瞬間、赤が宙を舞う。それはヒョウルモンでも、駆け付けたハクシンモンやラティスモン、シキアモンのではなく、正真正銘コユリの鮮血だった。白が赤に染まっていく。

リーツァモンはコユリの肩に牙を立て、貫いた。だがリーツァモンは更に深く貫くつもりだった。しかし、途中で動きがピタリと止まった。


「…やっぱり、あなた…だった……」


掠れた声でコユリは言葉を紡ぐ。命を落としてもおかしくない筈なのに、コユリはゆっくりと腕を伸ばしてリーツァモンを優しく撫でた。その彼女の行動にリーツァモンの動きが止まったのだ。今目の前で起きている全ての出来事に、誰もその場から動けず声も出せないでいた。


「……もう…戦わなくて…いい、んだよ」

「ッ……!」

「…なに…か、弱みでも、握られてるの……?」


その言葉にリーツァモンは肩を震わせた。コユリは掠れた声で話し掛け続ける。


「……なか、まを…取られた…?」


図星だったようでリーツァモンは激しく動揺しだした。それにコユリはゆっくりと口角を上げて、優しい口調でリーツァモンに言った。


「だいじょ…ぶ。絶対……貴方の仲間を救って、みせるから…。もう…なか…ない、で」


その言葉に、リーツァモンはよたよたとコユリから離れ、また雄叫びを上げた。そして次の瞬間には自身の身体を壁に叩きつけ始めたのだ。コユリはそれを止めさせようと一歩踏み出すが、その場に力無く倒れた。やっと身体が動くようになったタイキ達は、声を荒げて彼女へと駆け寄った。


「おい!しっかりしろ、コユリ!」

「コユリさん!」

「早く傷を……!」

「ボクも手伝うっキュ!」


ラティスモンとキュートモンがすぐさま傷口に手を翳(かざ)し、傷口を塞いでいく。


「……っごめ、めい…わくかけ…て、」

「無理に喋るな!」

「ほん…と、ごめ……ん」


コユリは眉尻を下げ、若干顔を引き攣らせながら控えめ笑った。「ごめん」と、か細く言う声は途中で止まり、コユリの意識はプツリと途切れた。




流した鮮血は誰の為?



------(11/05/04)------
書きたかったシーンなのに上手く書けないorz 精進しなければ(・ω・´) リーツァモンは、バグラ軍に仲間を取られて嫌々ついていたって言う設定です、ハイ←

12/09/25:加筆修正済み





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