大広間で宴会が始まっている中、キリハとタイキは廊下に出ていた。陰ではゼンジロウ達がキリハを警戒している。二人の会話が珍しく続いていた時、タイキが先程から気になっていた事を口にした。 「なあ、キリハ。コユリはどうしたんだ?」 「……体調を崩して寝込んでいる」 「ッ!大丈夫なのか?!」 「俺からは何とも言えない」 「そんな……、」 「これ以上話す事は無い」とキリハはそこで会話を止め、コユリのいる部屋に戻ろうとした。 「……キリハッ!」 「どうし……っ」 名前を呼ばれ振り返ると、タイキから黄色の何かが投げられた。器用にそれを取り、よく見るとデジノワだった。 「コユリの分だ。起きたら渡してくれないか?」 「……ああ、」 それだけ返し、キリハは部屋へと戻った。部屋に入るとコユリは依然眠ったまま。彼女を護るかの様にヒョウルモンとシキアモンがベッド傍にいる。ハクシンモンは一旦クロスローダーに戻った様だ。 「遅かったな」 「予定より話が長引いた」 キリハはそう応えながら、先程タイキに渡されたデジノワをテーブルに置いた。しかしバステア城全体が揺れ、置いたばかりのデジノワが倒れて転がり落ちる。 「また敵襲か!」 「チッ……!」 舌打ちをし、キリハは自身のクロスローダーを持って外へと出た。 「行っちゃった」 「俺達も行くぞ」 「コユリは?」 「ラティスモンとハクシンモンがいるだろ」 ヒョウルモンのその言葉にクロスローダーからラティスモンとハクシンモンが出て来た。 「私(わたくし)達にお任せを」 「ああ、任せたぜ」 キリハに続いてヒョウルモンとシキアモンも外へと飛び出した。 バグラ軍との交戦が続く中、深い眠りについているコユリの脳裏にはひとつのメロディーが流れ込んでいた。ヒョウルモンを助けた時と同じ、デジモンのメロディーだ。直接脳を揺さ振られる様なそれに、コユリは無意識のうちに顔を歪める。 「っ……、」 誰だか分からないデジモンの悲痛なメロディーと高熱によってコユリは魘(うな)されていた。しかし、寝ても覚めてもコユリはコユリの様で。 「っ……あ、なた……だ…れ……、」 「主(あるじ)?」 「譫言(うわごと)のようじゃな」 ラティスモンはコユリの手を取り、長い前髪の間から譫言を言うコユリを心配そうに見つめた。ハクシンモンは彼女の汗ばんだ額に張り付いた前髪を横に分けている時、ビクリと肩を鳴らした。 「どうかしました?」 「……嫌な“気”を感じる」 「気、ですか?」 ハクシンモンは視線を窓から外へと移し、ラティスモンも釣られて外を見た。すると、窓の外から一体のコグロモンが飛び込んできた。コグロモンはハクシンモンの命により、このレイクゾーンに入った時から隅々に散らばっていたのだ。そして今、一体がハクシンモンの元へと戻って来た。 「何かあったのか?」 「タイヘン!タイヘン!」 「だから何が大変な……」 「リーツァモン!リーツァモン!」 コグロモンの発した「リーツァモン」と言う名前に、ハクシンモンとラティスモンは僅かに驚きを見せた。 「“気”の正体はリーツァモンだったようじゃな……」 「しかし、何故こんな所に奴が……」 「このゾーンにはジェネラルが四人揃っておる。全軍をリーツァモンに始末させる気じゃろう」 そう言いながら、ぴょんっと床に降りた。ラティスモンはハクシンモンを目で追う。 「どちらに?」 「城内に敵が入りこんだようじゃ。相手をして来る」 「なら私も……!」 「それなら部屋の前で待機しておれ。コユリが起きるかもしれないからの」 「…分かりました」 部屋を出た時、ラティスモンはコユリを一瞥(いちべつ)してから静かに扉を閉めた。コユリが目を覚ましたのは、それからすぐの事だった。 「……っ…い、…か…なきゃ……、」 ぼやける視界で辺りを見回した後、重たい身体を起こして立ち上がる。「行かなきゃ」と呟きながら覚束ない足取りでコユリが向かったのは、廊下に続く扉ではなく、外へと続くバルコニーだった。 「……わたし、が……たすける…から、」 徐々に傾く地盤と足場 ------(11/05/03)------ 次回から?時間軸が少しずれると思いますが、何も言わずに読んで頂けると有り難いです(´ω`) バルコニーの横に階段がついていて、そこから下?外?に出られる仕組みです← 12/09/20:加筆修正済み |