人間界では滅多に見る事の出来ないオーロラが広がっていても、キリハには関係の無いことだった。バーコードのオーロラを横目に、蒼の視線は湖の畔に聳(そび)え立つバステア城を捉(とら)えている。

そんな時キリハはふと気が付いた。コユリがやけに静かなのだ。普段の彼女であれば、上空に広がるオーロラを見た瞬間に「キリハくん!オーロラ、凄く綺麗だよ!」位は言う筈だ。しかし今日は大人しい。不審に思い、視線を横にいるコユリへと向けた。


「やけに大人し……ッ!」


次の瞬間、コユリがくらりと揺れた。咄嗟に伸ばしたキリハの手は空を掴んだだけ。彼女は宙へと投げ出され、そのまま真っ逆さまに落下していく。それに気が付いたメイルバードラモンは一気に急降下。その速さにキリハも飛ばされない様にメイルバードラモンに掴まる。落ちていくコユリの真下に降り、腕を伸ばして彼女を受け止めた。


「……っコユリ!」


怒鳴り声とも取れる声で自身の腕の中にいるコユリに声をかけるも、意識は無かった。それに加えいつも以上に頬が紅潮しており、苦しそうに肩で息をしている。


「っ……、」

「おい坊主!コユリはどうしたんだ?!」


白のクロスローダーから、焦りを含んだヒョウルモンの声が聞こえてきた。


「……熱があるな、」

「なんだと?」

「その通りの意味だ。メイルバードラモン、急いで城へ行け」


バステア城は目前だが、その短い距離をメイルバードラモンはスピードを上げて急ぐ。キリハはもう二度とコユリを落とさない様に、彼女の身体を抱きしめた。

バステア城の姫であるバステモンは、キリハの苦手なタイプだった。マイペースなバステモンに、キリハは調子を狂わされるばかり。


「病人がいる、一室借りたいのだが」

「それは大変ですわ。何処でもご自由にお使い下さい……」


それだけ言って足元で眠ってしまったバステモンに、キリハは眉を顰(ひそ)めた。まともに話も出来ないと、踵(きびす)を返して廊下に出る。廊下にはヒョウルモンとハクシンモンが待機していた。眠ったままのコユリはヒョウルモンの背に乗せられている。キリハは彼女を抱き抱え、廊下を歩き出した。


「コユリに触るな」

「俺の勝手だ、犬」

「犬なんかじゃねぇ!」

「ヒョウルモン、少し黙っておれ」

「チッ……、」


客室と思われる部屋に入り、コユリを静かにベッドに寝かせた。先程から変わらず、コユリは苦しそうに眉間に皴を寄せる。


「馴れないDWの生活が原因かの。ラティスモンが治せるのは怪我のみ、こればかりはどうしようもない」

「……」


何も出来ない自分に腹が立ったキリハは、掌に爪を立てて思い切り握りしめた。沈黙が続く中やけに外が騒がしくなり、爆音に混じって聞き覚えのある声が耳に届いた。


「バグラ軍の攻撃の様じゃな」

「にしてもこの声は……」

「……タイキか」


暫(しばら)くするとその音は止み、キリハは少し考えてから踵を返した。


「何処行くんだよ」

「タイキと話してくる」

「ならいいが……。コユリを捨てる様な真似はするんじゃねえぞ」

「フン、泣き叫んでも手放すつもりは無い」

「ケッ…!気障な野郎だ」


蒼の双眸と紅の隻眼の視線が宙で火花を散らす。先にそれを止めたのは、蒼のキリハだった。名残惜しそうにコユリを一瞥(いちべつ)してから、部屋を後にした。




切望するのはキミの声



------(11/05/02)------
キャラ崩壊が止まらない← キリハの「〜手放すつもりは……」発言は、後々撤回します(・ω・`) 次回かその次辺りに、オリデジを出します(´ω`) 設定の詰めが甘くても、今に始まった事じゃないので何も言わないで下さいorz

12/09/20:加筆修正済み





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