昼間の平地ですら自分の脚に引っ掛かって転ぶコユリが夜の山道で転ばない訳がない。キリハがそれに気付いたのは、歩き出して三十秒も経たない内の事だ。 「コユリ」 「どうしたの?」 「転ばれるのはもう沢山だ」 手を繋げば転ぶ回数も減るだろうと考えたキリハは、視線を逸らしながらコユリに手を差し出した。すると彼女は眉尻を下げて恥ずかしそうに笑いながら「ごめんね」と言ってその手を取った。 コユリの手が触れた瞬間キリハの胸が今まで以上に高鳴り、熱が顔に集中していくのが分かる。夜で良かったとキリハは安堵した。昼間だったならこの赤ら顔をコユリに晒す事になるからだ。 一方のコユリはキリハと手を繋いでも特に何とも思っておらず、平気な顔をしている。彼女からすれば異性だろうと「友達」には変わりがないのだ。その所為でキリハの気持ちには全く気付けていない訳だが。 「キリハくんの手、冷たいね」 「そうか?」 「うん。手が冷たいのは、心が温かいからなんだよ」 「なら、コユリも同じ事が言えるな」 「えっ?冷たいかな?」 その言葉にコユリは空いている方の手を自身の頬に当てた。しかし「良く分からない」と首を傾げ、その手を何の躊躇(ためら)いもなくキリハの頬に当てた。 「冷たい?」 「ッ……!」 「わっ、キリハくん熱でもあるんじゃ……!」 コユリの不意を突く行動に、キリハは驚いて固まってしまった。一方のコユリは彼の頬の熱さに驚いている。 「ッ……大丈夫、だ」 「本当に?」 「ああ……、」 暴れ回る鼓動を静めようとしているキリハの頬からコユリは手を離した。大分落ち着きを取り戻し始めたキリハは、彼女の手を引いて歩き始める。それからはコユリの転ぶ回数は減り、キリハも少し油断していた、その時。 「きゃあっ……!」 「ッ……!」 石に躓(つまづ)き、コユリが盛大に転んだ。若干気の抜けていたキリハも対処しきれずに一緒に転んでしまった。 「おい、大丈ッ……!」 「……っキリハく、」 パチリと開いた目蓋から覗かせた紅と、蒼の視線が宙でぶつかった。あまりの近さに二人は息を呑む。その距離僅か三センチ。少し動けば唇に触れてしまうその距離に、両者の拍動はいつも以上に早く、やけに煩く聞こえる。コユリが口を開こうとした時、目の前にいたキリハが消えた。 「……へ?」 「大丈夫かッ!?」 「ひょ、ヒョウルモン?!」 キリハと入れ替わりで現れたヒョウルモンに、コユリは驚きを隠せないでいる。ヒョウルモンと一緒に来ていたシキアモンが彼女の手を引き、その場で立たせた。 「でも何で二人が……?」 「コユリが危険に曝されてるみたいだったから」 「坊主の魔の手に落ちる前で良かったぜ」 「魔の手……?」 ヒョウルモンとシキアモンに気を取られていたコユリだったが、いきなり消えたキリハを思い出し、周囲を見渡す。すると少し離れた場所から若干窶(やつ)れたキリハが歩いて来た。コユリに覆い被さっていたキリハ目掛けてヒョウルモンが体当たりし、キリハは横に飛ばされたのだ。 「キリハくん!大丈夫?!」 「……問題無い、」 心配するコユリにキリハはそう応えると、彼女の後ろにいるヒョウルモンを睨みつけた。それに対し「ざまあみろ」と言わんばかりに鼻で笑うヒョウルモンに、キリハが殺意を覚えたのは言うまでもない。キリハはこの場でグレイモンをリロードしてヒョウルモンを叩きのめしたいのだが、コユリがいる為それを抑えている。宙でぶつかり合う殺意の籠もった視線にコユリは全く気付かず、キリハが怪我をしていないかとオロオロしている。 何はともあれヒョウルモンとシキアモンが乱入して来た事により、キリハはキャンプ地に戻る事を決めた。 「チッ……。コユリ、戻るぞ」 「えっ?う、うん」 元来た道を歩き出したコユリとキリハの後ろをヒョウルモンとシキアモンが付いて歩く。コユリを抜いた三人の間には殺気が漂い沈黙が続く。そんな状況を壊したのは何も気付いていないコユリだった。 「ねえ、キリハくん」 「なんだ」 「なんだかデートみたいだったね」 「ッ……!」 「コユリ!」 「えっ?私、何か悪い事でも言った?」 暗闇仮想デートを堪能 ------(11/04/27)------ 最近(と言うかいつも)キリハが迷子orz オチも無くて申し訳ない(・ω・`) にしても今回は少女マンガにありそうな話になってしまった← コユリの転ぶ回数はギネス並です(笑) 12/09/20:加筆修正済み |