すっかり陽も落ち、辺りは暗闇へと姿を変えた。山の中に街灯などある訳無く闇に揺らめくオレンジの炎だけが頼りだ。それを囲む様にしてコユリとキリハは座っている。疲れが溜まっているのかコユリはうとうとしながら仮眠中のヒョウルモンに寄り掛かっていた。


「コユリ」

「っど、どうしたの?」


突然キリハに名前を呼ばれ、堕ちかけていたコユリの意識は完全に目覚めた。


「昼間、ネネと何を話していた」

「えっと……、」

「正直に言え」

「…ネネちゃんに「一緒に来ない?」って誘われて……」


その返答は大方予想がついていたが、キリハは顔を顰(しか)めた。それに気が付いたコユリは慌てて付け足す。


「で、でも断ったからっ……!」

「どうして断った」

「へ?」


その言葉に、コユリは不意を突かれた。キリハの事だから「そうか」と返ってくると思ったからだ。


「どうしてって……、」

「ッ……いや、なんでもない」


先程のキリハの言葉は本音が無意識に出たものだった。気が付いて発言をすぐに撤回。この場に居づらくなり、少し頭を冷やして来ようと立ち上がってコユリに背を向けた。


「…あのまま…ネネちゃんと行ったら、キリハくんに一生会えなくなる様な気がして……」

「俺に……?」


その答えにキリハは振り返る。コユリは紅の瞳を伏せ気味に、パチパチと乾いた音を立てる炎を見詰めながら言った。


「そんな事あるわけないのに…、馬鹿らしいよね」


眉を下げて笑うコユリの声は、キリハの耳に殆ど届いていなかった。彼女は「大切な友達と会えなくなる」という純粋な考えで言っているのだとすぐに分かる事だ。それでも、心の隅で“期待”してもいいかと思っている。少しでも自分に気が合るからそんな事を考えるんじゃないかという期待を。しかし、そんな馬鹿らしい考えはすぐに消えた。


「ねえキリハくん、何処行くの?」

「周囲を見てくるだけだ」

「じゃあ、私も一緒に行っていい?」

「別に、構わないが……」


頭を冷やす筈だったのにコユリが来る事になり、キリハの体温は上昇する一方。コユリはそんな事など露知らず、笑顔で彼に駆け寄った。


「暗いから足元には気をつけろよ」

「大丈夫だって!」


そうは言うものの、やはり心配でならないキリハ。


「危ないと思ったらすぐ俺に掴まれ」

「でも、キリハくんまで転ぶかも……」

「それ位大丈夫だ」


そう言ってキリハは歩きだし、コユリもなるべく離れない様にして歩く。そんな二人を後ろから眺めていたのは、先程から続くやり取りで目が覚めてしまったヒョウルモンだ。ヒョウルモンはキリハがコユリに手を出すかもしれないと思い、飛んでいたコグロモンを二体呼んだ。


「コユリと坊主を監視、その映像をここで中継してくれ」

「ワカッタ!ワカッタ!」


一体のコグロモンは暗闇に自分の姿を隠してコユリを追い掛けて行った。もう一体は、映像が送られて来るまでヒョウルモンの傍をパタパタと飛んでいる。すると木に寄り掛かっていたシキアモンがヒョウルモンに近付いた。


「そんな事して、バレたらマズいんじゃない?」

「コグロモンは優秀だから簡単にはバレねえよ。それより、コユリが襲われでもしたらどうすんだ」

「…過保護だねえ……」


シキアモンの呆れ気味の視線にヒョウルモンは気付いていない。




淡い期待は葬ればいい



------(11/04/21)------
次の次にはレイクゾーンに入ると思います。それにしても、バアルモンとの絡みが無い(・ω・`) どうする?!どうする私!←

12/09/20:加筆修正済み





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