キリハは外から聞こえてくる雨音をBGMに部屋に置いてあった本を読んでいた。それはDWに関する古い文献のようで興味本意で読んでいたのだ。雨音に混じりノックの音が聞こえ、キリハは視線を扉へと向けた。


「誰だ?」

「あ、あの…コユリ、だけど……」

「っ……!」


扉越しの彼女の声にキリハの胸は高鳴った。その高鳴りが何だか分からぬままキリハは扉を開ける。そこには、眉尻を下げながら申し訳なさそうな表情を浮かべるコユリが立っていた。


「何かあったのか?」

「あっあの…実は、」


口籠もるコユリにキリハは何か有ったんじゃないかと疑い始めたその時、窓から外の閃光が入り込んできた。


「きゃっ……!!」

「……っ!」


コユリは思わず目の前にいたキリハの胸に飛び込んだ。空を分ける様に落ちる光と地を揺らす大きな音、雷だ。先程よりもこの街に近付いているのが分かる。


「…ただの雷だ」

「ご、ごめんね……。私、雷苦手で……」


そう言いながら顔を上げたコユリの瞳にはうっすらと涙が見えた。その瞬間またしてもキリハの胸が高鳴る。


「あ、あのねキリハくん……」

「どうした」

「……い、一緒に寝てもいい?」

「っ何を言って……!」


突然の発言に驚いたキリハ。その反応が否定だと思ったコユリはキリハから離れながら言った。


「……やっぱり、駄目だよね…。夜遅くにごめんね、」


コユリは自分の部屋に戻ろうと踵(きびす)を返した。長い白銀が揺れる。キリハは無意識の内に彼女の手を掴んだ。


「キリハくん……?」

「あ、いや……。雷が止むまで、なら……居てもいいぞ」

「…あ、ありがとうっ」


キリハがいつものように外方(そっぽ)向きながら言うと、コユリは独りじゃないと安心して口角を緩めた。キリハはコユリの手を離して部屋に招き入れた。外ではまだ雷鳴が轟いている。その度に肩が跳ねるコユリを見て、キリハは読みかけの本を手に取りながら口を開いた。


「もう寝たらどうだ」

「そうしたいんだけど……」


嫌でも耳に飛び込んでくる音にコユリは咄嗟(とっさ)に耳を塞ぐ。


「音が気になって……」


「アハハ」と渇いた声で無理に笑うコユリ。キリハはどうしたものかと考えるが、自然現象である雷をどうする事も出来ない。


「取り合えず横になってろ」

「でもキリハくんは……?」

「俺はいい」


そう言ってキリハはコユリにベッドを譲る。一つのベッドで一緒に寝るのは気が引けたからだ。それに対し彼女が口を開いた。


「寝ないと駄目だよ!」

「だからっ……」

「キリハくん、疲れた表情(かお)してるから」

「……!」


確かにここ最近キリハは碌(ろく)に眠れていなかった。野宿はしているがキリハは仮眠を取る程度で疲れは溜まっていく一方。それをコユリは分かっており、キリハは隠しているつもりなのだろうが、疲れが顔に出ていたのだ。

コユリは雷に怯えながらもキリハを寝させようとする。頑(かたく)なに拒むキリハだったがコユリが必死に説得してきた為、最終的にキリハが折れた。


「おやすみ、キリハくん」

「あ、ああ……」




あくまで果てなき純情



------(11/04/02)------
キリハが別人過ぎて泣けてきた(;ω;) ヘタレというよりただの奥手な純情少年……(・ω・`) 純情は書きにくい事に気が付いた←

12/07/24:加筆修正済み
title:空想アリア





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