脚に力が入らない、無意味に喉が渇く。鼻の奥がツンとしては紅の双眸から涙が溢れそうになる。それは今まで騙されていたのかもしれないという疑念からくる悲しさと、敵の言葉に簡単に揺らいでしまう悔しさの感情が入り交じった涙なのだろう。そんな彼女の姿に黒い龍は不気味な声で笑う。


「ソイツは自分の意思で数多のデジモンを闇に葬って………」

「黙れ!」

「フン、真実を語ったまでだ。そこの何も知らないガキの為にな」


ヒョウルモンは言葉を遮り、コユリとは違う紅の瞳でデクリアモンを睨みつけた。


「…ヒョウ…ルモン。…ほんと、なの……?」

「…コユリ、」


コユリはその大きな瞳にうっすらと涙を浮かべ、震える声で呟くように言った。ヒョウルモンは言葉を失う、今の彼女に一体何を言っていいか分からないのだ。


「…全く、話しておけとあれ程申したのに」

「ハクシンモン、今の本当なの?」

「それは奴自身の口から聞く事じゃ」

「……」


ハクシンモンの呟きをシキアモンはしっかりと聞き取っていた。ラティスモンは何も喋らず、彼女の本心は彼女自身にしか分からない。


「まあいい。…まずはガキから血祭りに上げてやる!」

「ッ……!」


デクリアモンの影が鋭くなってコユリを襲う。だがヒョウルモンの事で頭が一杯で、反応がいつも以上に遅れてしまった。影は肉を裂き、嫌になる程鮮やかな赤が宙を舞う。白銀が真紅に侵されていく。しかし、その赤はコユリのモノではなかった。


「グハッ……!」

「っ……ヒョウルモン!!」


それは咄嗟にコユリを庇ったヒョウルモンのモノで。倒れ込むヒョウルモンへ駆け寄るコユリ。その傷を治そうとラティスモンも急いで近寄った。シキアモンは白鴉を抜き、今にもデクリアモンに飛び掛かりそうな勢いだ。


「ヒョウルモン!しっかりして!」

「……っ悪いな、コユリ」

「えっ?」

「…確かに…俺はバグラ軍の元兵士だ」

「っ……!」

「奴の言う通り…数えきれない程のデジモン達を殺してきたのも事実だ。……けど、今は違う」

「ヒョウルモン……」

「全てを悔い改め、この世界の為に命を懸けると誓った。何故だか分かるか?お前と……コユリと出逢って、俺は変わったんだ」


ラティスモンの治癒能力でヒョウルモンの傷は少しずつではあるが治りつつある。ヒョウルモンの言葉に、デクリアモンは更に声を上げて笑った。


「変わった?お前がか?お前は私と同類だ」

「……う、」

「あ?」

「違う!ヒョウルモンは貴方とは違う!!」

「なんだと?」


黒龍は理解出来ないとばかりに顔を歪めた。だがコユリの言葉にシキアモン達が賛同する。


「確かに、アンタとヒョウルモンは違う」

「比べるまでも無いですね」

「愚問じゃな」

「っ……お前ら、」


その言葉にヒョウルモンは驚いていた。自分が元バグラ軍という事で軽蔑され、拒絶されると思っていたからだ。


「どうせアンタの狙いはヒョウルモンの過去を暴露して仲間割れさせる事でしょ?生憎僕等、お互いの過去には拘(こだわ)らない主義なんだ」


シキアモンの言葉にデクリアモンは下らないと嘲(あざけ)り笑う。


「少し計画が狂ったがどうでもいい事だ。お前達の首を差し出せばバグラモン様もお喜びになるだろう」

「貴方の様な卑劣な奴に私達は負けない!」

「その威勢も何処まで続くか見物だな」




砂の城にはならない絆



------(11/03/30)------
ヒョウルモンの話を書き過ぎて、住民の話を持ってこれなかったorz 次こそはキリハが出て来ると思います(・ω・´) ………多分←

12/07/24:加筆修正済み





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