二人はネネと別れ、新たなゾーンへと移動中だ。黄や緑、青の鮮やかな色をしたデータの道をふわふわと浮きながら進んで行く。重たい沈黙を破ったのはコユリの呟くような控えめな声。 「……キリハくん」 「なんだ」 「あ、あの……手、」 「っ……すまない」 ずっと繋がれたままの手。コユリに言われ咄嗟(とっさ)に離したキリハの頬は若干紅に染まっている。後ろにいた彼女にそれは見えず、キリハは胸を撫で下ろした。そうしている間に二人の目の前に白く輝く出口が現れ、そのまま新たなゾーンの地を踏む、筈だった。辺りを浮遊するとあるゾーンから突然“影”が伸び、コユリの身体を捕らえたのだ。 「きゃあっ!」 「っ…コユリッ!」 「キリハくん!」 “影”は凄まじい力でコユリをゾーンへと引きずり込んでいく。キリハは先程離したばかりの手をコユリに伸ばし、彼女もまたその手を掴もうとした。一瞬指先が触れあったが手を取ることは出来ず、無情にもコユリは連れ去られてしまった。 *** 「――…おい、起きろコユリ」 「…っ…ヒョウ、ルモン……?」 ヒョウルモンの声でコユリの堕ちていた思考がゆっくりと覚醒していく。どうやら連れ去られた衝撃で気を失っていたようだ。痛む身体に鞭を打ってその場で起き上がり、辺りを見回す。紅の瞳に飛び込んで来たのは、石畳の道と煉瓦作りの家、そして風情ある古城。 「……ヒョウルモン、ここ…どこ?」 「オルドゾーンだ」 「オルド…ゾーン……?」 「ああ、訳の分からねぇ影に連れて来られたらしい」 「連れ去られた…?けど、キリハくんは……?!」 「どうも此処に来たのは俺達だけの様だな」 ヒョウルモンは辺りを警戒しながらそう答えた。その言葉にコユリは眉尻を下げて心配そうな表情を浮かべる。 「でも、なんで私だけが……」 「……出る杭は打つ、か」 「えっ…?」 その呟きにコユリが首を傾げた時、クロスローダーからシキアモンとハクシンモンが出て来た。 「狙いはコユリとコードクラウンと見て間違いないのう」 「ハクシンモンに同意。コユリ、見てみなよ」 「……あれは、」 シキアモンの指差す方向には、青空に不釣り合いなバグラ軍の旗がはためいていた。それはこのオルドゾーンがバグラ軍に支配されているという証だ。 「……このゾーンを助けないと、」 「言うと思ったぜ」 「バグラ軍の根城はきっとあの古城じゃが……距離が遠くてよく見えん」 ハクシンモンは第三の目を開眼させて周囲を見るが、肝心の古城の中は良く見えないらしい。それを聞いたコユリは自身のクロスローダーを取り出した。 「リロード、コグロモンズ」 「シゴト?シゴト?」 「そうなの。あの古城の中と、敵の数を調べて来て?」 「ワカッタ!ワカッタ!」 「無茶しないでね!」 彼女の命令にコグロモンズは一斉に飛び立ち、古城の方向へと姿を消した。 「僕は情報収集が先決だと思うけど」 「それじゃあ、まずは街に下りて誰かに話を聞いた方がいいよね」 「そうだな」 「妾(わらわ)も賛成じゃ」 ハクシンモンは軽々とコユリの肩に跳び移る。彼女が嫌がる訳もなくハクシンモンの頭を一撫でしてから街へと歩き出した。 これは悲劇か、喜劇か ------(11/03/02)------ 守られるだけのヒロインじゃ駄目だ!と思ったので思い付きで書きました← やっぱり少し戦える位の方がいいのかと(・ω・) 暫くコユリのターン!みたいな感じで進みます(笑) 12/07/23:加筆修正済み |