「――…The rest is silence.」

「……はい、そこまで!皆さんお疲れさまでした。大変良い出来なので本番成功まで頑張っていきましょう。それでは今日はここまで、解散!」


顧問の言葉によって生徒達は演劇の練習を止め、台本片手に多目的ホールから出て行く。コユリもまた、顧問と二言三言交わしてから教室に戻った。


「流石は主(あるじ)ですね、私(わたくし)感動しました」

「ふふっ、ありがとうラティスモン。でもまだまだだよ」


誰も居ない放課後の教室でコユリは鞄に台本と筆記用具を詰めながら、クロスローダーの中のラティスモンと言葉を交わす。すると突然教室前方の扉が開き、ショウコが現れた。


「凛堂さん、少し良いかしら?」

「黒木、会長……?」


意外な人物の出現に内心驚くコユリだったが、驚いたのはそれだけではなかった。

(…足音なんてしなかったのに…それに、人の気配なんて全く無かった……!私が気付かなかっただけ……?)


「実は、貴女にお願いがありまして」

「お願い…ですか?」

「ええ、」


カツ、カツ、とショウコは一歩ずつゆっくりとコユリに歩み寄る。普段のショウコとは纏っている空気が違うような気がしてコユリの身体は思わず強張る。


「私の為に、死んで下さらない……!?」

「ッ……!」


ぎらりと光ったナイフ。ショウコは隠し持っていたそれをコユリに振り翳した。危険を察知していたコユリは咄嗟に横に避けた。ガタガタと机が音を立てる。ナイフは彼女の髪を掠める程度で済んだ。その拍子に切れた数本の髪がふわりと宙に舞う。


「……チッ」

「か、会長!一体何を……?!」


だがショウコは聞く耳を持たず、またコユリにナイフを振り翳す。


「会長ッ!」

「コユリ!この嬢ちゃん正気じゃねぇ!とにかく逃げろ!」


クロスローダーの中から聞こえるヒョウルモンの怒号に近い声に、コユリは急いで廊下に飛び出す。しかし、


「……ッ!?」


左右からふらふらと覚束ない足取りの生徒達がこちらに向かって来ているではないか。その生徒達も様子が可笑しい。まるで何かに操られているようだとコユリは薄々感じていた。今の状況を把握する前に生徒達に挟まれてしまった。そして目の前にはナイフを持ったショウコ。もう逃げ場は無い。


「コユリ!もう俺が出る!ここは強行突破しか……!」

「駄目!それじゃ皆を傷付けちゃう!」

「じゃあどうするんだよ!」


様子が可笑しいとは言え生身の人間、怪我をさせる訳にはいかない。傷付けることもなくこの場から逃げる方法を考える。


「ふふっ、もう逃げ場はありませんね、凛堂さん」

「……いえ、まだありますよ黒木会長」

「?」

「お、おい!コユリ、お前まさか……!」


ショウコは首を傾げるが、ヒョウルモンは勘付いたようで慌てた声を上げる。コユリは振り返り窓を開け、躊躇(ためら)うことなく窓からその身を投げ出した。予想外の出来事にショウコも唖然としている。

一瞬ふわりと浮いた身体は重力に反することなく一気に落下する。が、次の瞬間には誰かに抱き抱えられていた。


「大丈夫でござるか?コユリ殿」

「ツワーモン!」


彼女を救ったのはユウのパートナーであるツワーモンだった。そのまま激しい衝撃も無く地面に着地し、コユリを静かに下ろした。


「ありがとう、ツワーモン」

「コユリさんッ!」

「ユウくん!」


血相を変えてこちらに走って来るユウ。「どうしてここに?」と聞こうとしたが、その言葉はユウによって掻き消された。


「どうして飛び降りたんですか!しかも四階から!」

「ど、どうしてって…ああするしか方法が無かったから……」

「だからって普通飛び降りますか?!」

「あはは…心配かけてごめんね」

「全く、心臓が止まるかと思いましたよ」

「でもユウくん、どうしてここに?」


ユウとタギルはデジモンの気配に気が付き、クロスローダーを頼りに進んだらこの学園に辿り着いたらしい。そして追い詰められているコユリを見付けた次の瞬間には彼女が飛び降りたようで。その一瞬の間にコユリが何も考えずに飛び降りたと考えたユウはダメモンを超進化させ、ツワーモンを向かわせたそうだ。因みにタギルは「俺が先にハントしてやる!」と意気込んで何処かへ走って行ったらしい。


「それじゃあ、皆の様子が可笑しかったのはデジモンの所為…?」

「そのデジモンに操られている可能性が高いですね」


その時、ユウからの知らせを受けてこちらに向かっていたタイキから連絡が入った。




追い詰められた白百合



------(13/07/20)------
本当は窓を蹴破る予定でしたが、流石にやり過ぎだと思ったのでボツになりました(笑)





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