「ずっと前から好きでした!付き合って下さい!」

「あっ…えっと…、ごめんなさい」


勢い良く下げられた頭に、コユリは困惑した様子で恐る恐る答えた。すると彼女の答えに相手は相当ショックを受けたようで。


「そんなっ……、何がいけないんですか!」

「いけない、って言う以前に私達女の子同士だし……。流石にそう言うのは、ちょっと……」

「っ……!」


コユリに告白したのは正真正銘の女の子で、コユリの後輩に当たる。少女は涙目になりながら制服のスカートを翻(ひるがえ)して走り去ってしまった。小さく溜め息を吐くコユリに、クロスローダーの中のシキアモンが顔を出した。


「モテモテだね、コユリ」

「こんな私を好きになってくれるのは嬉しいけどね。私にはキリハくんが居るし、流石に女の子に恋愛感情は抱かないよ」

「なら、私には付き合ってる人がいますって宣言すればいいじゃん」

「この学校、男女交際禁止なの。だから…」

「矛先は同性に、ってことね」

「恋、って言うより憧れに近いんだろうけどね」


苦笑しながら小声で返すと、荷物を置いたままの教室に戻る。既に放課後。先程の女生徒に放課後屋上に来て欲しいと言われたのだ。屋上はちょっとした庭園のような造りになっており、いつでも開放されている。

オレンジ色の暖かな夕陽が窓から射し込み廊下を鮮やかに色付ける。今日は演劇の練習も仕事も無く、久々にゆっくり出来ると考えていると、正面から一人の生徒が歩いて来た。


「あら、凛堂さん」

「あっ…黒木会長、」


黒木ショウコ、生徒会長だ。若干吊り上がった黒の瞳がキッとコユリを射抜き、嫌みったらしい口調で言った。


「ハムレットの方は順調に進んでいるかしら?」

「…はい、勿論です」

「当然のことながら主役が一番の要。全て貴女に掛かっていますのよ?学園の歴史に泥を塗らぬよう精々頑張って下さいね。それでは…御機嫌よう、凛堂さん」

「っ…御機嫌よう、」


まるでコユリを嘲笑うかのように言い放ち去って行ったショウコ。コユリは彼女の姿が見えなくなったのを確認してから大きく息を吐いて肩を落とした。


「主、大丈夫ですか?」

「ラティスモン…。実は黒木会長のことちょっと苦手なんだよね」

「そりゃあんな態度取られちゃ、幾らコユリでも嫌いになるよな」

「別に嫌いって訳じゃ……。ただ、一方的に嫌われてるような気がして」

「どうせコユリを妬んでるだけだろ。ただの当て付けだから気にすんな」

「妬む要素なんて無いと思うんだけどなぁ……」


彼女の呟きに「人柄から妬めないだけで要素はある」と思ってしまうヒョウルモン達だった。



***



時計屋のおやじの依頼で手始めにアメリカの調査から行っていたキリハ達ブルーフレア。やはりそう簡単には核心を掴めずにいた。


「今日も収穫は無しか」

「そう焦るな、メイルバードラモン」

「次は何処に行くんだ?」

「そうだな……。…誰だ……!?」


背後に感じた人の気配。只者では無いことはすぐに分かった。一気に緊張が張り詰める。キリハはすぐさま振り向き、メイルバードラモンも戦闘体勢に入る。


「sorry,sorry!そんなに構えないでよ。あたしは敵じゃない」


陰から現れたのは二つ結びの金髪の少女と、犬のような形をしたデジモン。彼女は敵意は無いとへらりと笑った。


「…君もハンターなのか?」

「残念だけど、ハンターではないよ」


近いものではあるけどね、と続けた少女はポケットからクロスローダーとは異なる小型の機械を取り出した。


「君は一体……、」

「ふふっ、今はまだナイショ」


初対面だというのにそうとは思えない少女の微笑みに、キリハは内心引っ掛かりを感じた。その時、一瞬にして彼女の顔付きが険しくなった。


「…来たみたい」

「ッ……!」


彼女の言葉とほぼ同時に周囲の景色が歪み出し、キリハ達は強制的にデジクオーツへと引き込まれてしまった。こんなことは初めてで、キリハは困惑の色を隠しきれていない。どうやら敵デジモンの力によって引き込まれたらしい。


「詳しい話は後でするから、今は敵を倒す為に力を貸してくれないかな?蒼沼キリハくん」


まるでコユリのような紅の瞳に見詰められ、キリハは頷くしかなかった。その間にも背筋が凍るような、どす黒い空気が辺りに充満していくのを肌で感じる。


「自己紹介がまだだったよね。あたしはキリノ、宜しくね」

「ああ、宜しく頼む。…無駄話はここまでのようだな」

「さてと、行きますか!」




黒薔薇の荊が絡み付く



------(13/04/11)------
誤解を招きそうなので…最初のくだりは百合ではありません、ただの憧れです。学園には派閥がいくつかあったりするのですが…余裕があれば書きます(・ω・`)





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