時間を戻し、コユリがヒョウルモン達と再会した後。一同は思い出話に花を咲かせ、いつしか辺りは薄暗くなっていた。あまり遅くなってはコユリに悪いと、今日はここで解散し、また後日集まって話そうという事になった。 すると何時かのようにユウがコユリを送って行くと名乗りを上げ、コユリも彼の善意を無駄にしては申し訳無いと一緒に帰ることになったのだが。二人きりとなると(クロスローダーにヒョウルモン達がいるが)以前のことを思い出しては何処か気不味い雰囲気が漂う。それでもどうにか場を和ませようと、コユリからユウに学校生活の話題を振る。 「…ユウくん達の学校は文化祭の準備とか始まってるの?」 「ええ、最近やっと話が纏まって来ました。コユリさんの学校はかなりのお嬢様学校ですけど…やっぱり文化祭とかはあるんですか?」 「うん、あるよ。普通の学校より早いし、中身も少し違うと思うけどね」 「違う…と言うと?」 「うーん…まず、招待制だから招待状が無いと入れないし…。クラス別の出店はかなり本格的な物ばっかりで…。それから推薦で選ばれた人達で演劇をするんだけど、今年の演目はシェイクスピアのハムレットなの」 「招待制…確かに凄いですね。コユリさんはハムレットに出演するんですか?」 何とか学校の文化祭という話題で最初の気不味い雰囲気は消えた。コユリはそれを何となく感じ取りながら会話を続ける。 「実は…ハムレット役に推薦されて…断れなくて…そのまま、」 「コユリさんがハムレット?!凄いじゃないですか!」 「ぜ、全然凄くなんかないよ…!本当は他の先輩で決まってたんだけどその先輩が辞退したから……。私は繰り上げで決まったようなものだよ」 「それでも主役の座を射止めるなんて凄いですよ!コユリさんのハムレット、観てみたいです」 「あはは…何だか恥ずかしいな…。じゃあ近くなったら招待状送るねっ。もし良かったらタイキくんやタギルくんと遊びに来て?」 タイキやタギルが一緒ではあるが、ユウは嬉しさで心躍らせる。だが所詮は友達止まりで、叶うことの無い片想いだと思い知らされる。 「楽しみにしてますね!コユリさんも是非僕達の文化祭に来て下さい」 「うん!必ず行くねっ!」 お互い気不味さは消え去ったが、心の隅では以前のことが引っ掛かったまま会話を続けた。そしていつしかコユリの自宅に着き、ユウは名残惜しそうな表情を浮かべる。 「反対方向なのにわざわざ送ってくれてありがとう、ユウくん」 「いえ、コユリさんと色々お話出来て楽しかったです。…あのっ、」 「……?」 ユウは躊躇(ためら)うように言葉を詰まらせ、コユリは僅かに首を傾げる。 「…まだ、好きでいても良いですか……?」 「っ…うん、」 「…良かった。…それじゃ、僕はこれで」 それだけ言ってユウは足早にコユリの前から去って行った。彼の小さくなっていく後ろ姿を、コユリは切ない表情で見詰めていた。そんな彼女に気が付いたヒョウルモンがクロスローダーの中から声を掛ける。 「コユリ、もうアイツに乗り換えれば良いんじゃねぇか?」 「何言ってるのヒョウルモン!」 端からすればコユリの独り言にしか見えず、周囲に変な誤解を招く前にコユリは自宅へと入って行った。 *** 「みぃーつけた…!」 そう呟いた少女の口が弧を描く。高い位置で二つに結わえた長い金髪が夜風に吹かれて靡(なび)き、月光に照らされて美しく輝く。 「……若い、って言うより幼いね。やっぱり」 少女の隣に居た、白銀の髪の少年がぽつりと言った。彼等が瞳に映すのは、今し方ユウと別れ、ヒョウルモンと言葉を交わしながら自宅に入ろうとしているコユリだ。 「でも雰囲気はそのままで嬉しいなぁ」 「そうだね。…じゃ、僕は“こっち”で」 「OK……あたしは“向こう”ね。Good luck!」 金髪の少女が少年に声を掛けるや否や、彼女はふわりと姿を消した。そんな彼女に対し、何処か呆れた様子の少年。だがすぐに蒼の視線を凛堂邸へと戻す。 「……」 新たなる二人の訪問者 ------(13/01/27)------ 文化祭ネタを書きたいけど基本秋…orz でも無理矢理書きそうな予感← 最後の二人が何者なのか……分かり易過ぎますよね(´ω`;) |