今日は広告の撮影だと聞かされてスタジオ入りしたコユリ。しかしいつまで待っても撮影が始まる気配は無く。スタッフも揃っているようだし、勿論コユリの準備も万全だ。それなのに始まらない為、何かあったのかと不安になってきた、その時。


「遅れてすみません……!」

「っ…ネネちゃん!」


慌てたようにスタジオ入りしたのは、香港を拠点として芸能活動を行っているネネだ。予想外の彼女の出現に、コユリは驚いたように駆け寄った。


「久し振りね、コユリ」

「本当、久し振り…でもどうしてネネちゃんが…?」

「あら、聞いてなかった?今日は私とコユリでの撮影なのよ」


マネージャーの桐谷曰く、コユリにネネとの撮影を黙っていたのは、社長であるランカの意向とのこと。ランカからコユリへのサプライズだ。

因みにネネの遅刻は、このスタジオまでの道が事故で渋滞になっていた為らしい。話したいことは山程あるが、それは仕事が終わった後だ。遅れを取り戻す為に二人はすぐ撮影に入った。

それから順調に撮影が進む中。スタジオにひっそりとやって来た人物がひとり。スタッフ達もモデル二人に視線を向けている為、気付いていない。しばらくしてから撮影に立ち会っていたビアンカの社員の一人が気付き、思わず声を上げた。


「せ、先生!」


その声に全ての作業、撮影までもが中断され、全員の視線がスタジオ後方に向かう。そこには苦笑するランカがいた。


「駄目でしょ、撮影の邪魔しちゃ」

「す、済みません…。ランカ先生がいらっしゃるとは聞いていなかったので…」

「近くまで来たから、ちょっと見学にね」


予想外のことに現場は慌ただしくなる。何せ社長であるランカが突然現れたのだ、粗相があってはならないと緊張もするだろう。椅子やお茶を慌てて持ってくるスタッフに対し、ランカは笑ってすぐ帰るからとそれらを断った。そして彼女の脚はモデルへと向かう。


「貴女達二人には期待してるから、頑張ってね」

「「ありがとうございますっ!」」


コユリとネネが声を揃えたその時、照明器具が微かながら揺れた。次の瞬間、


「!…お母さんッ!」

「!?」


ランカの背後にあった照明器具が突然倒れてきた。スタッフの悲鳴が響き渡る。コユリはランカの腕を強引に引いて横に跳んだ。ネネも逆方向に避け、三人が照明器具の下敷きになることは無かった。

周囲は騒然とし、「大丈夫ですか」と三人に駆け寄る。一体何が起きたのかランカは困惑気味だが、コユリとネネの表情は険しい。僅かだが確かにデジモンの気配を感じたのだ。

それをお互いに共有する間もなく、今度は天井から吊るされた照明が音を立てて全て割れた。更にブレーカーが落ちたのか、一瞬にしてスタジオは暗闇と化す。突然のことにスタッフの悲鳴やら怒号が飛び交い、ばたばたと足音が鳴る。


「ネネちゃん!」

「コユリ!クロスローダーを!」


二人はすぐにクロスローダーを取り出してデジモンの襲撃に備える。すると次々何かが倒れるような音と共に、スタッフの慌てふためく声が段々少なくなっていくのだ。


「…コユリ、一体何が……?」

「危ないから、お母さんは私から離れないで…!」


初めて聞く切羽詰まった声色に、ランカは驚いた。そしてコユリ達以外消えてしまったような静けさが訪れた。


「「ッ……!」」


背筋が凍るような、どす黒い悪意が肌を刺す。近付いてくるデジモンの気配に、コユリとネネは身体を強張らせる。薄暗いスタジオの中、彼女達の前に音も無く今回の犯人が姿を現した。


「凛堂、コユリ…みつけた」




戦友と潜み襲い来る闇



------(14/10/14)------
ネネとの共演ネタが書きたくてコユリをモデルにした、なんて裏話が……(笑) この話が終わったらアイルとの話を書く予定です。





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