「キリハくん!」


心地好いソプラノの声に反応してキリハがその場で振り返ると、笑顔でこちらに駆け寄って来ていたコユリが眼前で盛大に転んだ。


「またか」

「……うん、」


ゆっくりと顔を上げて立ち上がり、えへへと照れ笑いを浮かべながら頬を掻くコユリは実年齢よりも更に幼く見える。

彼女はこのDWに来てすぐにバグラ軍に襲われ、その時偶然近くにいたキリハに救われた。それからはキリハと行動を共にしている訳だが、彼の想像以上にコユリは凄かった。

何も無い所で転び、少しでも目を離せばすぐに逸(はぐ)れてしまう。良く言えば無邪気、悪く言えば注意不足。そんな子供のような彼女にキリハは甘い。しかし、その事に一番驚いていたのはキリハ自身だった。


「痛っ……」

「どうした?」

「……足首挫いたみたい」


キリハは呆れたように溜息を吐くが、内心悪い気はしていない。人の面倒を見るのは好きではないキリハもコユリだけは何故か目が離せない様で。


「ほら、」

「えっ?」

「乗れ」

「で、でも……」


キリハはコユリに背を向けて乗るように言うがコユリは躊躇(ためら)っている。そんな彼女に痺れを切らし、キリハはコユリを強引に背負ってまた歩き始めた。


「きっキリハくん!私重いからっ……!」

「重くない」

「うぅ……キリハくん、ごめんね」

「次はないからな」

「あ、ありがとうっ」


ぶっきら棒に外方(そっぽ)を向きながらそう言ったキリハに、コユリはふんわりと微笑みながら礼を言った。そんな時彼女はある事を閃きポケットからあるものを取り出した。


「キリハくん、こっち向いて?」

「今度は何し……?」


仕方無しに一度立ち止まって後ろを見ると、その瞬間口内に甘い味が広がった。突然の事に驚いているキリハの表情にコユリはクスクスと笑う。


「お礼の飴、嫌い?」

「いや……嫌いじゃない」

「良かった」


無邪気に微笑んだコユリに、少し顔を赤らめたキリハはまたすぐに前を向いて歩き出した。


「久し振りに舐めた」

「こっちの世界はこんな食べ物ないからね」

「そうだな」

「キリハくんは早く帰りたい?」

「出来る事なら、な。そう言うコユリはどうなんだ?」

「私は……帰りたくない…かな?」

「なんで疑問形なんだ」


透かさず彼女の発言に突っ込むキリハ。するとコユリは恥ずかしそうに「あはは」と笑った。


「帰りたい気持ちは勿論あるけど……、」

「あるけど……なんだ?」

「まずはこの世界を平和にしないと!帰るのはそれから」

「っ……そう、か。…一人で平和にするつもりか?」

「え?ヒョウルモン達と、平和にしていきたいけど……」

「無理だな。戦力不足だ」


バッサリと切り捨てたその言葉にコユリは少ししょんぼりしている。だが、キリハは続けて言った。


「……だから、俺が手伝ってやるよ」

「……キリハ、くん」

「それならいいだろ?」


その言葉にコユリは感極まり思い切りキリハに抱き着いた。


「キリハくん大好き!」

「な、何言って……!」


突然の告白に耳まで真っ赤にしたキリハ。しかし、その言葉は「友達として」という事であり、決して恋愛感情からのものでは無い。いつものキリハならすぐに分かる事だが突然の事に頭が回らなくなっている様で。その事実に気付いたのは数時間後の事だった。




二人は交わらずに廻る



------(10/12/27)------
お待たせ致しました、デジクロ連載再開です。突然書き直し等と言って本当に申し訳ありませんでした。これが私の書きたかった連載です。旧連載を読んでいただいた方にも、初めて読まれた方にも楽しんで頂けるような連載を目指していきたいと思います。こんな事しか言えない管理人ですが、応援して頂ければ幸いです。これからも終焉愛唯歌を宜しくお願いします!

12/07/22:加筆修正済み





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