荒れ果てたゾーンにも昔は温厚なデジモン達が暮らしていた。村の住人達は平和な毎日を送っていたが、その当時力を付け始めていたバグラ軍が侵攻を開始。ゾーンを守る為に住人達は武器を持って立ち向かうが呆気なく返り討ちにあった。為す術も無くこのままバグラ軍に屈伏しようかという時、白鴉(はくあ)を手にしたシキアモンが一人でバグラ軍に立ち向かったのだ。 シキアモンは村の中で其れ程目立った存在ではなく、突出した能力も持っていない。にも関わらず、シキアモンはたった一人でバグラ軍を全滅させたのだ。その日を境に、住人達はシキアモンを英雄として讃えた。だが、執念深くやって来るバグラ軍を悉(ことごと)く返り討ちにするシキアモンを、何時しか“鬼”と呼んで恐れ始めたのだ。 そして住人達は遂にある行動を起こした。 「――…っ…なんで…皆が……!」 「…悪いな、シキアモン。これも村の為なんだ……」 住人達は各々武器を持ってシキアモンを取り囲む。全員でシキアモンを亡き者にすると決めたのだ。恨んでいる訳でない。いつかシキアモンがバグラ軍に寝返り、このゾーンを売るのではないかと言う疑心暗鬼に陥っていたのだ。 「僕が何をしたって言うのさ……!」 住人達の瞳の奥に恐怖心を見付けたシキアモンは、絶望の縁に追い遣られた。 (…ああ、そっか。僕は要らない存在なんだ) 住人達は武器を振り被ってシキアモンへと襲い掛かる。その瞬間、相手を敵と認識しなければ外れる事の無い白鴉の札が舞い上がった。一心不乱に白鴉を振るう。鼓膜を震わせるのは今まで仲間だと思っていたデジモン達の断末魔。そして何時しかシキアモンは独りで立ち尽くしていた。他には誰もいない。自らの手で一人残らず殺めたのだ。 淀(よど)んだ空から雨が降り始めた。まるでシキアモンの胸の内を表しているような悲しい雨。雨音に掻き消されているのはシキアモンの高笑う声だ。天を仰いで狂った様に笑い続ける。その時頬を伝ったモノが雨粒なのか、涙なのかは本人にも分からない。 *** 「…ッ……!」 耳を劈(つんざ)く爆音で目が覚めた。どうやらコユリと別れた後知らぬ間に眠っていたらしい。 「……嫌な夢、」 吐き捨てる様に呟きながらゆっくりと立ち上がる。まだ完治していない右腕を庇(かば)いながら、煙が立ち上っている方角へと脚を進めた。 焼き付いて離れない ------(11/12/27)------ 少しバアルモンの過去に寄ってしまいましたが……シキアモンも辛い過去を持っていると言うことで← 12/09/13:加筆修正済み title:maria |