まだゾーンの全てを確認した訳ではない為、コユリ達は此処で一晩過ごす事になった。陽が暮れて暗闇がゾーンを覆い隠す。静けさも相俟(あいま)ってか、寂れた村は昼間以上に不気味だ。揺らめく炎から薪が燃える乾いた音だけが聞こえてくる。少しでもこの場を離れれば、静寂に飲み込まれてしまうだろう。 「――…おい、坊主」 「蒼沼キリハだ。……で、何の用だ」 「コユリ、知らねぇか?」 「コユリ?お前と一緒じゃなかったのか?」 ヒョウルモンは今し方まで偵察に行っていた。キリハはてっきりコユリとヒョウルモンが行ったものだと思っており、ヒョウルモンはその逆で、コユリとキリハがキャンプ地で待機しているものだと勘違いしていた。漸(ようや)くコユリが居ない事に気が付き、二人の顔は蒼褪(あおざ)めているように見える。 「何で目を離したんだよ!普通直ぐに気付くだろ!」 「変な言い掛かりは止めろ!話は後だ、今はコユリを捜すぞ!」 慌ただしくコユリを探し始めたが、辺りは真っ暗でそう簡単には見付からない。 そしてその張本人は、森の中を彷徨(さまよ)っていた。 「――…何処だろ、ここ」 少しキャンプ地を離れてしまい、それからずっと迷っているのだ。足元が殆ど見えない為に何度も蹌踉(よろ)けては転びそうになっていた。どうにかしてキリハ達の元へ戻ろうとして辺りを見回した時、物音に気が付いた。引き寄せられるようにそちらへとゆっくり脚を進める。雲に隠れていた満月が顔を出し、彼女と前方の木に寄り掛かるあのデジモンを照らした。 「あっ……!」 「ッ……!」 デジモンはすぐにこの場を離れようとするが、腕の傷が深い為にそう俊敏には動けないでいた。するとコユリはデジモンに駆け寄り、何も言わずに鞄から救急箱を取り出して手当てをし始めた。 「――…はい、これで終わり。ごめんね、私達の所為で……」 眉尻を下げながらそう言った彼女に、デジモンは驚きを隠せないでいる。当然と言えば当然だろう。先に攻撃を仕掛けたのは自分で、この怪我も自分で引き起こしたもの。にも関わらずコユリが謝り、手当てまでしたのだ。目の前の人間が何を考えているのか、デジモンには全く理解出来ないでいた。 「私、凛堂コユリ。貴方は?」 「……シキアモン、」 「シキアモン?宜しくねっ」 呟くように言ったシキアモンだったが、初めて返事をしてくれたとコユリは満足そうに微笑んだ。 「…このゾーンに、何しに来たの……?」 「このゾーンのコードクラウンを譲って貰おうと思って来たんだけど……もうバグラ軍が奪って……」 「バグラ軍は来てないよ」 「えっ?」 一瞬その言葉が理解出来なかった。村の荒れ果てた様子やシキアモン以外のデジモンがいない事から、既にバグラ軍が侵略したものだと思っていたからだ。 「……鬼が、このゾーンを潰した」 「…お、鬼……?」 「そう、鬼。鬼に喰われる前に早く此処から出てった方が良いよ」 まるで突き放すかの様な冷たい口振り。だがそんな事でコユリが引く訳が無かった。 「シキアモンは?」 「……は?」 「シキアモンだって一人でいたらその鬼に捕まっちゃうんじゃない?」 「……別に、僕の心配なんてしなくて良いから」 「でも、心配だよ……」 「敵に心配だ、なんて良く言えるね」 「私はシキアモンを敵だとは思ってないよ?」 (…やっぱり何考えてるのか分かんないや……。それともただのお人好し……?) シキアモンは左腕を上げ、右方向を指差した。 「ここを真っ直ぐ進めば村があるから。…迷ってたんでしょ?」 「う、うん!ありがとうシキアモン!」 その方向へ数歩歩いた所でコユリが振り返った。 「シキアモンも一緒に来ない?独りは寂しいと思うの」 「っ……もう馴れた、早くしないと鬼が出るよ」 少し寂しそうな表情を浮かべたコユリは、言われた方角へと大人しく歩いて行った。 森の奥で、君と二人で ------(11/12/26)------ 何だか不完全燃焼……(・ω・`) 次は台詞が殆ど無いと思われます……。 12/09/13:加筆修正済み title:maria |