コユリとキリハの視界に飛び込んで来たのは殺伐とした光景だった。 「…酷いっ……」 「既にバグラ軍が侵略したと考えた方が良いかもしれないな」 「…そうだね……、」 荒れ果て枯渇した森や眼下に広がる村の様子から、既にバグラ軍が侵攻してコードクラウンを奪って行ったと推測される。 「……妙だな」 「えっ?」 「何がだ、ヒョウルモン」 「バグラ軍は侵略したゾーンを自分達の良いように使い、住民達を扱き使うんだ。だがここには人っ子一人いねぇ」 ヒョウルモンは寂れた村を見渡しながら言った。確かに見た限りではデジモンは一体もおらず、不気味な静けさに包まれている。 「やけに詳しいな」 「…ゾーンを転々としてれば詳しくもなるさ」 視線を逸らしたヒョウルモンにキリハは若干疑いの眼差しを向けたが、コユリの言葉に視線を彼女へと戻した。 「まずは村に行ってみようよ。誰もいない訳じゃないと思うから」 「ああ、そうだな」 コユリとキリハは荒れ果てた森を抜けて村へと下りた。二人の後に続くヒョウルモンは辺りを警戒している。 「――…誰かいませんかーっ?」 コユリが声を上げて辺りを見て回るもデジモンの気配は無い。 「…二人の言う通り誰もいないのかな……」 「そうかもしれ……っ!コユリッ!」 「え?」 「白裂(ハクレツ)ッ!」 「きゃあっ……!」 不意を突いた攻撃に逸早(いちはや)く気が付いたキリハは、コユリを抱えてそれを避けた。その攻撃によって真横の地面は大きくひび割れ、キリハの頬に冷や汗が流れた。無傷で済んだコユリは未だに状況が理解出来ずにいる。 「っ…一体なにが……、」 「お前の言った通りデジモンがいる様だ。リロード、グレイモン」 「っ!…ヒョウルモン!」 ヒョウルモンとグレイモンが陰に隠れているデジモンに敵意を顕(あら)わにしながら攻撃を仕掛けていく。すると二体の攻撃に押され、そのデジモンがコユリ達の前に姿を現した。黒の着物に身を包んだ人間の子供のような姿。だが頭から生えた角が人間ではない事を物語っている。 「テメェ…何で攻撃して来るんだ!」 「……」 「ね、ねえ!このゾーンについて少し聞きたい事があるんだけど……!」 「……」 「チッ……だんまりかよ」 デジモンはコユリとヒョウルモンの問いには一切答えず太刀を構えるだけ。 「フン、なら無理矢理吐かせればいいだけの話だ」 「そんな事したら可哀想だよ……!」 「っ……、」 「だが……!」 彼女の言葉にそのデジモンは微かに反応を見せたが四人はそれに気が付いてない。その一方でこればかりは譲れないとコユリはキリハを見詰めた。先に折れたのはキリハの方で、視線を逸らした彼の頬は微かに赤くなっている。 「っ…好きにしろ」 「!…ありがとう、キリハくん」 黙秘を決め込むデジモンに苛立ちを見せたヒョウルモンだったが、コユリとキリハの会話でそれは更に増していく。 「チッ……蛇雷(レーペレボルト)ッ!」 まるで八つ当たりのような攻撃をデジモンは避けたが、蛇行するその雷が右腕に直撃した。その腕からは鮮血が流れ、地面に染みを作る。腕は麻痺し手から太刀が滑り落ちた。 「っ……!」 「これで攻撃出来ねぇな」 デジモンはヒョウルモンを睨み付け、悔しそうに下唇を噛み締めた。 「ヒョウルモン、奴は俺の獲物だぞ」 「そんなの早い者勝ちだ」 物足りなさそうにするグレイモンとヒョウルモンが言葉を交わしている間に、怪我を負ったデジモンは左手で太刀を拾い上げて森へと駆け込んだ。 「逃げんじゃねぇッ!」 「グレイモン、奴を逃がすな!」 「っ……追っちゃ駄目!」 コユリは悲痛な表情を浮かべながらヒョウルモン達を止めた。遣り切れない様子だが、彼女の言葉だからなのか大人しく従った。 滅びた町の番人 ------(11/12/25)------ 番外編は一人辺り3〜4話を目安に書いていきたいと思います(´ω`) 後付け設定だったりするので、矛盾する点が出て来てしまうかもしれないです……← 12/09/13:加筆修正済み title:maria |